努力する子の育て方

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うちの子のADHD脳ー衝動的なのに自己抑制が効く矛盾した人が普通にいるという話

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ADHDというと、衝動性や多動を抑えることが難しい、つまり「自己コントロールが弱い」という見方が一般的かと思います。私も以前はそんな風に考えていましたが、うちの長男ケイのADHD的な特性について考える中で、「ケイの多動は自己コントロールの問題というより駆動系が強すぎるせいなのでは」という見方が非常にしっくりくることに気が付きました。

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で、まあ色々考えて割と納得していたのですが、最近またちょっと気になり始めてしまいました。

私の考えだとケイは「自己コントロールのための抑制系に問題はないが、駆動系の出力が相対的に高すぎるのでADHDっぽく見える」ということでした。しかし、そもそも自己抑制系と駆動系は独立のものと扱って良いでしょうか?ケイを見ていると自己コントロールと衝動性は別物だと強く感じるので、私はケイのADHD特性を解釈する上で、2つを別物と仮定して考えてきました。

しかし、可能性としては、自己コントロールと衝動性はコインの表裏、つまり「自己コントロールができない=衝動性が高い」「自己コントロール能力が高い=衝動性低い」というように、同じ現象を逆方向から眺めて、違う名前で呼んでいるだけ、という可能性もあり得ます。というか、そういう見方の方が一般的だから、ADHDは自己コントロールの障害が原因だとよく言われているんですよね。

もし自己コントロールと衝動性がコインの表裏ならば、それとは違う前提から出発している私のケイのADHD脳の解釈は、全部非現実的で無理のあるものということになってしまいます。そこで実際に、自己コントロールと衝動性の関係性はどんな風になっていそうなのか、研究報告をあたってみることにしました。

自己コントロールと衝動性の関係性

さっそく自己コントロールと衝動性に関する研究論文を探してみると、同一人物について自己コントロールと衝動性を問診票でテストし、その相関係数を報告している論文がいくつかみつかりました。

Impulsivity, self-control, and hypnotic suggestibility - ScienceDirect

Control me or I will control you: Impulses, trait self-control, and the guidance of behavior - ScienceDirect

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.5455/bcp.20120911042732


そしてこれらの報告にある自己コントロールと衝動性の相関係数を見てみると、値はだいたい-0.5から-0.7の間となっていました。

この-0.5から-0.7という相関係数の値は中程度の逆相関の存在を意味しています。つまりこれは「自己コントロールが高ければ衝動性が低い」、「自己コントロールが低ければ衝動性が高い」という関係性はあるけれど、いつもかならずそうした逆の関係というわけでもないということを示しています。

もしも自己コントロールと衝動性がコインの表裏であったなら、その相関係数は-1に非常に近い値になるはずなんですね。つまり、相関係数を見る限り、自己コントロールと衝動性は関係はあるけれどあくまで独立したもの、つまりコインの表裏ではないと考えられます。

 

 

衝動性が高いのに自己コントロールも高い人は実際にいるのか

上記の研究で見られた中程度の相関というは、自己コントロールと衝動性は独立したパラメーターであり、場合によってはどちらも高かったり、どちらも低かったりがあり得るということを示しています。

ということは、私がケイに仮定したように、自己コントロールは低くないけど、駆動系が高すぎて多動・衝動性が高くなっている人、というのも実際にいるという可能性が十分にあるということです。

そこで、そういう人がいることを直接示している研究報告がないかと探していたところ、立正大学のグループが、かなり近い研究報告をしてくれていました。

http://repository.ris.ac.jp/dspace/bitstream/11266/5305/1/nenpo05_p071_kobashi_etal.pdf


この研究は「自己コントロールも衝動性も高いという人はいないのか」という疑問に基づいて、上記の海外の研究同様、自己コントロールと衝動性の問診票テストのスコアを使い2つの特徴の間の関係性を見ています。

結果をみると、調べた339人のうち、60人が「自己コントロールも衝動性も高い」群にに分類され、自己コントロールも衝動性も高いという人が実際にいるということが示されています。ちなみにこの調査対象は私立大学生ということなので、自己コントロールも衝動性も高い人は、特別な存在でもないということもわかります。

つまり、私がケイのことを見て考えてきた「自己コントロールに問題はないのに駆動系が強くて多動・衝動性が出ている」という考え方は、決して非現実的なものではないということがわかりました。

衝動性も自己コントロールも高い人の特徴がケイと重なって見える

この立正大学グループの研究で非常に興味深かったのは、研究報告の中にあった「衝動性と自己コントロールの両方が高い人」の特徴というのが、ケイの特徴にかなり当てはまって見えることでした。

研究報告では調査した339人を「衝動性と自己コントロール両方高い人(1群)」、「衝動性が高く自己コントロールが低い人(2群)」、「衝動性が低く自己コントロールが高い人(3群)」、「衝動性と自己コントロール両方低い人(4群)」に分類し、その特徴の違いについて検討しています。その結果、各群の間で最も顕著な違いが認められた項目は、行動モチベーションに関するものでした。

この研究では行動のモチベーションを「駆動(望まれる目的を持続的に追及する傾向)」と「刺激希求(新しい刺激や報酬よく考えず近づく傾向)」という2つの項目に分けて検討しています。「駆動」は要するにある程度長期的な目的達成のために自分を律しながら努力するという、自己制御能力が必要なタイプの行動モチベーションで、「刺激希求」は対照的に瞬間的、即物的、衝動的な行動モチベーションです。

研究報告のFig. 2に示されているように、「衝動性と自己コントロール両方高い人(1群)」は当然刺激希求が高スコアですが、同時に駆動のスコアも高スコアでした。
そして、その駆動スコアは、「衝動性が低く自己コントロールが高い人(3群)」、すなわち典型的な「自己制御が得意な人」とほぼ変わらないスコアだということもわかりました。

こうした結果から、「衝動性と自己コントロール両方高い人」の特徴は、「考えずに新しい刺激に飛びつくことがあるものの、目的達成のために自分を律する行動も十分にとれる」というある種矛盾したものであること、そして特にその「目的達成のために自分を律する行動傾向」に関しては、衝動性が低く自己コントロールが高い、典型的な「自己制御が得意な人」と比べても遜色がない、ということが読み取れます。

この研究で見出された「衝動性と自己コントロール両方高い人」の「衝動性は高いのに、課題や目標に向かっての持続的な行動もできる」というぱっと見矛盾した性質は、まさにケイが見せる特徴そのものです。なので、この結果を見た時に、自分が考えているケイのADHD脳の解釈はかなり現実的でいい線いっているのではと感じられ、とても嬉しくなりました。

やっぱりいろんなADHDのタイプがいそうだよねという話

以前の記事で同じ多動・衝動性・不注意でも、その発生メカニズムには色々あって、今はADHDと括られている人達の中には色々なタイプの「ADHD脳」がありそうだねということを書いたんですけど、今回「衝動的で自己制御能も高い人が実際いる」という証拠を見つけて、改めてその可能性は高いのではないかと思いました。

というのも、上で紹介した「衝動性と自己コントロール両方高い人」の「衝動性は高いのに、課題や目標に向かっての持続的な行動もできる」という特徴は、「普段衝動性は高いが、スイッチが入るとすごい集中力を発揮することもある」みたいな、ADHDの説明で「あるある」として出てくる特徴とも重なると思ったんですね。

そういう性質って今の世の中では「ADHDの衝動性とASDのこだわりの合併のせい」なんて解釈されることも多いと思うんですけど、もちろんその可能性もあるとして、そうではなく単純に衝動性と自己制御能がどちらも高いという性質を備えている結果、ということだって考えられるのではないかと思いました。

特に、もし衝動性と自己制御能がどちらも極端に高ければ、衝動性の高さも目標に向かった持続的な努力もどちらも凄いレベルでこなす、周囲から見ると行動の予測が難しいピーキーな人物になりそうですよね。

そんなことを考えていると、やっぱり多動・衝動性・不注意というADHDのメインの特徴とされる"症状"には色々な発生メカニズムがあり、ADHDを一くくりの概念として扱うのは、あまり現実に即していないのではないかと強く感じられるのでした。