少し前に一般財団法人 高IQ者認定支援機構(HIQA)(https://www.hiqa.or.jp/)という団体の問題点を取り上げる記事を書いたところ、ギフテッドや育児とはあまり関係のない方からも反響があり驚きました。記事に書いたこと以外の色々な情報を提供して頂いた方もおり、この場を借りて感謝申し上げます。
さて、前回の記事ではこの団体の知能に関する無知さや、利用する独自テストCAMSの抱える知能テストとしての深刻な欠陥、高IQ者の支援という目的と齟齬を来している活動内容などについて、具体的な指摘を行いました。 しかし、この団体が利用する独自テストCAMSの抱える最大の欠陥と予想される「標準化」の問題についての指摘は、団体からの正式な情報公開がなされるのを待っている状態でした。www.giftedpower.net
ところが、最近私のところに、このCAMSに関しての問い合わせがいくつか立て続けに舞い込んできました。質問内容を見ると、どの方も「CAMSの受検を迷っている」とのことで、第一回のCAMSによる検査実施を直前に控えているにも関わらず、CAMSの詳細情報が公開されないことに不安を感じているご様子でした。
そして、私の2か月前の記事と現在の団体サイトの内容が食い違っているので、「改訂された内容を見ても、まだ高IQ者認定支援機構の活動には問題がありそうか」というお問い合わせも頂きました。
非常に残念なことに、この記事を書いている2019年10月20日21時時点においても、この団体からCAMSの標準化など、CAMSの知能検査としての信頼性や妥当性を客観的に評価するための情報公開は行われていません(第一回のCAMS検査実施予定日は2019年10月27日となっています)。
そこで今回は、情報が少ない中でCAMSの受検を迷っている方向けに、CAMSの標準化情報が利用できない現段階でも、CAMS、そしてこの団体の活動の信頼性を判断するのに役立つ情報を提供しておきたいと思います。
高IQ者認定支援機構のCAMS、その標準化プロセスの想像を超える不誠実さ
すでに書いた通り、CAMSの標準化に関する情報は未だに公開されていません。しかし、このCAMSに関する情報を収集すると、このCAMSの標準化プロセスにはすでに大きな問題が見出せます。
「標準化」は知能テストを含むすべての心理テストの信頼性と妥当性に関わる極めて重要なプロセスであり、そのプロセスは主に(1)テスト内容が目的の能力を測定していることの検証、(2)検査結果の解釈を可能にするためのデータ収集と解析の2つのパートに分けられます。従って当たり前ですが、この標準化のプロセスは知能テストが実際に実施される以前に完了している必要があります。
私が最初の記事を書いた8月初旬の時点で、CAMSの第一回検査実施は2019年9月22日の予定になっており、受検者の登録受付もすでに団体のサイトを通じて行われていました。しかし・・・様々な情報を見ると、なんとCAMSの標準化作業は、9月22日のCAMS受検受付が既に始まっていた2019年8月、9月の時点で、完了していないどころか開始されてもいなかったということがわかります。
そう判断できる根拠を示していきましょう。まずは以下に、CAMS制作の中心人物と考えられる高IQ者認定支援機構理事(以前は業務執行理事となっていましたが変更になったようです)の幸田直樹さんのTwitterから入手できるCAMS標準化の情報を引用します。
CAMS(本検査)のデータ取得のためのプレ実施はIQ130以上(sd15)の方のみで150名以上(150×50=7500人ベース)。更に、CATTELLでも数万人に1人レベルの非常に高い数値を持つ方にも多数来ていただきます。これは前代未聞の規模です(お金かかってます)。統計処理は理事(東工大教授)が監修です。 https://t.co/k8fjqnRQJO
— 幸田直樹 (@Naoki_Kouda) August 13, 2019
また、同じく幸田直樹さんのTwitterからリンクされている、ご本人の質問箱からのCAMS関連情報も引用します。
CAMSとネット上の根拠不明なIQテストの違いは何でしょうか? CAMSには科学的根拠を持つ発達理論や知能理論が | Peing -質問箱-
心理測定・テスト理論を専門とする大学教授監修の下、事前に250名を超える被験者(高IQ者)に受検いただいてデータを取得。医療系IQテストCATTELL のスコアを持つ人も多いため、それらを併せて分析。IRT(項目反応理論)を用いてスコアを算出いたします。上記の準備として2年以上かけてMENSA会員数百名に対してCATTELL IQテストを実施しました。情報公開も予定してます。色々世界初です。情報公開は教授やその他専門家と協力して進めるため、時間がかかるかもしれません。少しずつ何回かに分けて公開していくかもしれません。
こうした情報から、CAMSの標準化に使われている被験者サンプルは150~250名のMENSA会員であり、そのMENSA会員が持つCATTELL IQテストのスコアも利用して標準化を行っているということがわかります。
ところが・・・JAPAN MENSAの公式サイトで公開されているイベント情報を見てみると、なんとこのCAMSの標準化に使われている被験者データ収集が行われたのは、2019年の9月1日、7日、8日なのです(CAMSのプレ実施であること、CATTELL IQテストのスコアを収集していることが明記されています)。
https://mensa.jp/event/index/detail/id/1300/
https://mensa.jp/event/index/detail/id/1301/
https://mensa.jp/sight/index/detail/id/1302/
つまり恐ろしいことに、当初予定されていた2019年9月22日の第一回CAMSの受検者を募集していた8月、9月の段階で、CAMSの標準化は終わっていないどころか、データ収集の開始すらしていなかったということになります!
まだ標準化を開始してもいない状況で、第一回の正式検査の日程を告知し受検者を募るなどということは、あり得ませんし、あってはならないことです。そして、CAMSの標準化情報が公開されていない現状、CAMSの標準化は、まだ終わっていないという可能性すら残っています。
標準化前に知能テストの測定範囲を発表する虚飾
上記を読んで、CAMSのIQ115-180sd15という測定範囲がずいぶん前から公開されていたことをおかしいと感じた人は、鋭い人です。本当に科学的なプロセスを踏んでいるのであれば、プレ試験のデータ集めの前から、測定範囲を示せる知能テストは存在しません。
つまり、この団体は、まだプレ試験が開始してもいないテストの測定可能範囲をなんの根拠もなく示し、あたかもCAMSの標準化が完了しているかのようにみせかけていたと考えられます。
こうした、テストの標準化をする前から根拠のない発表を行い、さらに受検者の募集まで行っていたという事実には、この団体の知能検査の信頼性と妥当性、そして受検者の知能を正確に測定するということに関する意識の低さが如実に表れていると考えられます。
(ちなみに、上で引用した幸田直樹さんによるCAMS標準化の説明にも、CAMSの標準化プロセスに非常に大きな統計学的欠陥があることを示す事実が多数含まれていますが、それはCAMSの標準化情報が公式に発表され次第、まとめて指摘していくことにしましょう)。
重要点が説明もなく変更される高IQ者認定支援機構(HIQA)のアナウンス
これはCAMSではなく、高IQ者認定支援機構の情報公開に関する姿勢の問題です。私が最初の記事を書いた時から、この団体のサイトの内容は様々な点で変わっています。
実際のところ、変わっているなんて話ではありません。9月上旬ごろにサイトにあった情報で、今でも変わらず残っているものの方が少ないほどです。しかし、何よりも驚く変更点は、CAMSによる高IQ者認定のカットオフラインに関してではないでしょうか。
以前、確認できる限り10月初旬まで、この団体はCAMSでIQ147 sd15以上のスコアを記録した受検者を「高IQ者」と認定して支援の対象とすると公式に発表していました。しかし、現在のウェブサイトでは、このカットオフラインは、削除されてどこにも確認できません。サイトのどこを見ても、CAMSでどの程度のスコアを取れば「高IQ者」と認定され支援の対象になるのか、その基準が不明という状態です。
CAMS受検を考える人がよく考えるべき点は、この団体の公開している情報は、明日にでもなんの説明もなく、消えてしまったり変更されてしまったりする可能性があるということです。
特に、高IQ者の認定と支援の基準値というのは、この団体の活動の中で最も重要な情報の一つであるはずです。その情報が、ある日突然、前触れも説明もなく変更されてしまうということは、この団体に関わろうとする全ての人間がよく考えておく必要のある事柄と言えます。
もし貴方がこの団体のサイトを見て、CAMSの受検を前向きに考えるきっかけになる情報が見つかったとしましょう。その内容だって、数日後に見てみたら無くなっている可能性があります。なんせ、明記されていたはずの認定と支援の基準値すら説明もなく消えて、まったく不透明な状態になってしまうのですから。
こうした事実を知った上で、ご自分にとってこの団体の情報公開姿勢、活動姿勢が信用に足るものであるか、よく考えられることをお勧めします。
最後に
他にも、この団体が現状発信している情報には、非常にたくさんの突っ込みどころが存在しています。以前の記事でも既に指摘していますが、この団体は「高IQ者に特別な適性がある」と主張しているにも関わらず、その根拠はこれまでまともに提示していません。
さらには、最近更新された代表理事である松本徹三氏による「機構設立の趣旨」のページ(https://www.hiqa.or.jp/blank-11)を読むと、
同じ様な高IQ者でも、それぞれの人が持つ能力の特性や興味の対象は様々でしょうから、それらを正しく認識して、適材に適所を、適所に適材を紹介する方策は、一から考えていかねばなりません。
などと書いてあり、もはや意味がわかりません。「どんな適性を高IQ者が持つかは一から考える必要がある」ということは、「高IQ者に特別な適性がある」という主張にこの団体が根拠を持っていないことを自ら示してしまっていると言えます。
また、この団体の活動と欧米のギフテッド教育との関連性を示唆するような記述もありますが、米国のギフテッド教育プログラムで、CAMSのような科学的根拠のない知能テストや、図形行列推定課題しか含まないテストを参加資格の判定に用いるような所はまずありません(そもそもIQだけで判定するというようなところもずいぶん減ってきている)。
18歳以上の方にあっては、CAMSを受検される判断はあくまで自己責任ですが・・・私個人の見解としましては、最低でもCAMSの標準化情報が十分に公開され、CAMSの知能検査としての信頼性や妥当性の客観的な評価が可能になってから、よく情報を吟味した上での受検を強くお勧めいたします。
もしもCAMSとこの団体の活動がまともで根拠に基づくものならば、CAMSによる検査も今後軌道に乗っていくはずですから、情報が少ない現状で焦って受検する必要もないはずですからね。
おそらく近いうちに、CAMSの標準化に関する情報が公開されるのではないかと思われます。情報が公開されたらまたその内容について記事にしていきたいと思いますが、少々時間がかかる可能性があるため、さしあたってこの暫定版を公開しておくことにしました。CAMSの受検を迷われている方のご参考になれば幸いです。
*2019年10月22日追記*
上で述べていたCAMSの詳細情報が公開されましたので、その問題点を詳細に指摘した以下の記事も是非CAMS受検の参考にして頂きたいと思います。
<IQと人間の能力の関係性に興味がある方はコチラの記事もお勧めです>