努力する子の育て方

努力に勝る才能無し!努力の才能を育てる教育法、ボルダリングによる育児ハック実践、我が家の超個性的なギフテッド児の生態など

この発達障害の時代、育児に求められる「IQリテラシー」

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知能テストやIQスコアがずいぶんと身近なものになってきたと感じます。「これが解けたらIQ200!」みたいなお遊びのIQテストはネットやテレビで昔からありましたし、学校で集団式の知能テストを受けたという人は割といると思いますけど、WISCやWAISみたいな標準化された知能テストを個人で受けてスコアを持っている人なんて、昔はほとんどいませんでした。

知能テストが急激に身近になった背景には、間違いなく発達障害という概念の一般化があります。発達障害の相談抜きでWISCやWAISを受ける人は、今でもほとんどいません。私自身も、知能テストについて知識を得るきっかけになったのは、長男ケイの発達外来受診でした。それがなかったとしたら、きっと今でも知能テストやIQについて、これっぽっちも興味はなかったことでしょう。

しかし最近思うのは、発達障害の概念の広まりがIQテストを身近なものにしてきた一方で、知能テストやIQスコアというものに対する正しい理解というものは、あまり社会に広まっていないということです。そしてそこに付け込むように、発達障害に悩む人や親を狙った「IQ商法」的なものが増えてきています。

IQテストの結果から子供のことを正しく理解するために、そしてIQテストに関する知識不足につけこんだ商法の問題点を看破するために、IQテスト、IQスコアというものに関するリテラシーが要求される時代になってきたと強く感じます。

IQスコアと発達障害の関係性については以前も記事で書きましたが、ここではIQテストとスコアの持つ意味と解釈、そして怪しい発達障害IQビジネスに用心する方法について、もう少し詳しく書いていきたいと思います。 

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(IQスコアの持つ意味は、受けたIQテストの種類によっても大きく変わります。以下の文章は、現在日本で発達検査として主に利用されているウェクスラー式のIQテストを念頭に置いたものになります)

IQスコアの意味は各指標の数字だけ見てもわからない

知能テストの目的は、受検者の知能レベルを推測することです。ウェクスラー式のテストであれば、知識など学習の結果である結晶性知能、知識や学習に頼らない推論能力である流動性知能、ワーキングメモリ―や情報処理速度といった認知能力など、人間の知能を構成すると考えられる要素を部分的に測定することを目指してデザインされています。

従って、IQテストのスコアはその人の持つ生来の知能や認知特性を常に示していると思われがちですが、それは間違いです。実際のところ、IQスコアが受検者の知能を示しているかどうかは、受検者に関するもっと詳しい情報がないとわかりません。IQスコアの意味を読み解くには、受検者の経験や背景を理解した上での「解釈」が必須なのです。

例えば、IQスコアは何度も繰り返しテストを受けることで、知能と関係なく上がってしまいます(練習効果)。何度も繰り返し似たようなIQテストを受けている人のIQスコアは練習効果の影響を多分に含んでいるため、その数字がそのままその人の知能や認知レベルを示していると考えることはできないのです。

また、IQスコアはお受験や中学受験の勉強、先取り教育によっても上がります。従って、そうした勉強を直近で経験してきた子供のIQスコアは、「どれだけ勉強したか」という情報を多分に含んでいて、その子の生まれつきの知能や認知特性を反映している度合いは低くなっていると考えられます。

体調不良や薬物の影響も、IQスコアに影響してきます。従って、IQテストの結果を解釈する上では、受検時の受検者の状態もきちんと考慮する必要があります。例えば極端な話、精神活動を抑制するような薬物の影響下で得られたIQスコアには、当然その薬物の効果が大きく影響してしまい、受検者の知能や認知特性の情報を引きだすことが難しくなります。

このように、IQスコアの意味は受検者がこれまでにどのような経験をして、どのような状態にあるかという部分を勘定に入れなければ、十分に読み解けません。受検者の経験や状態によって、スコアの数値もそうですが、何よりその「スコアが持つ意味」が大きく変わってしまうのです。

うちの子のWISCのスコアの解釈で実際気になったこと

例えばWISC-IVには、ワーキングメモリー指標の補助検査の一つに「算数」があります。WISCについて調べていてこれを知った時、びっくりしてうちの子の検査でこの算数が使われたかどうかを確認しました。なぜかというと、うちの子は計算が好きで、幼稚園の頃からずっと口頭で計算問題に答える計算クイズで遊んでいたからです。

もしもうちの子の検査に算数の補助検査が使われていたならば、そのワーキングメモリ―指標のスコアが練習効果で汚染される可能性がありました。幸い、ケイの検査では算数は使われていなかったので、彼のワーキングメモリ―指標が生まれ持った認知特性を反映している度合いは薄まらずに済んだのですが、もしも使われていたとしたら、少なくともワーキングメモリ―指標に関しては、「どれだけ計算クイズで遊んだか」という練習効果が大きく反映された、ケイの生来の脳機能特性を知る上ではあまり参考にならないものになっていたと思います。

このように、WISCやWAISのスコアから受検者の知能や認知特性を知りたいならば、受検者の背景についてよく理解し、その経験によって大きく影響をうけるようなテスト内容を可能な限り避ける必要があります。

 

 

「ワーキングメモリ―の訓練」や「IQをアップさせる方法」の罠

発達障害とIQスコアの関係性が指摘されるようになり、発達障害の特性をIQスコアの特徴で説明するという試みもよく聞かれるようになりました。その問題点については以前の記事でも考察しましたが、最近は発達障害とIQスコアの間のリテラシー格差につけ込むような、怪しいIQ商法の話も良く聞きます。

例えば、「ワーキングメモリ―を鍛えると発達障害が改善する」といった謳い文句で有料相談を行ったり、訓練教材を提供するようなビジネスが実際にあります。ADHDと診断されて、知能テストでワーキングメモリ―指標が低かったら、そういう話が気になってしまうのは当然ですよね。

真っ先に真偽が気になるのは、「ワーキングメモリ―を鍛えたら本当に発達障害が改善するのか」という点だと思いますが、「改善しない」ということを証明することは非常に難しいので(悪魔の証明)、この点は決着に長い検証を必要とし、すぐに結論はでません。

しかし、こうしたIQやワーキングメモリーなどのIQテスト項目について「訓練する」「アップさせる」という話の信頼度は、IQテストの観点からもはかることができます。それは、その訓練手法が本当にIQやワーキングメモリ―をアップさせるのか、それとも単純に練習効果でIQテストのスコアを上げているだけなのか、という点に注目する方法です。

いくらIQテストの検査内容と似た課題を繰り返し行っても、それは練習効果でIQスコアを上げるだけで、知能や認知機能に実質的な上昇をもたらしてはいないと考えられます。従って、その訓練法がIQテストの検査内容に似ていれば似ているほど、その方法は練習効果を生み出すことで訓練の効果を偽装する、IQテストについてよく知らない人の弱みに付け込む商法である可能性が高いと判断できます。

例えば、数枚のカードに書かれた数字を子供に覚えさせた後に見えないところで1枚抜き取り、無くなった数字が何かを答えさせるワーキングメモリ―の「訓練」がありますが、これは情報が視覚的に提示されるという点を除き、課題としてはWISCのワーキングメモリ―指標の検査内容である数唱や語音整列に非常に似ています(実質的には、与えられた数字を頭に思い浮かべて、数秒間保持しておくという作業)。

従って、繰り返せばワーキングメモリ―指標のスコアは上がるかもしれませんが、その上がったスコアのかなりの部分は練習効果の影響で、純粋にワーキングメモリ―機能が上昇したとは解釈できないということになります。

そしてもちろん、ワーキングメモリ―が上がったら発達障害の特性や困り感が低減するかという問題は、また全く別の問題として残っている部分にも注意が必要です。

知能テストから子供を理解するためにIQテストの理解が必要

知能テストのスコアが個人の経験によって変化するということは、知能テストのスコアから得られる情報、スコアの意味は、一人一人変わってくるということです。

しかし、現在の日本では、自治体や医療機関で知能テストを実施した際に、そのスコアの意味を受検者が持つ経験や生育歴から解釈するということは、ほとんど行われていません。IQテストに関するリテラシーが向上しない大きな原因の一つは、このようにIQスコアが、その数値だけを見るごく表面的な利用しかされていないという状況にあると考えます。

こうした状況では、子供のIQテストのスコアを適切に解釈し、その数値が持つ真の意味を理解できるのは、子供の生育歴とIQスコアの両方を把握している親しかいません。単純に数値だけを見た表面的なIQスコアの利用は、IQテストの結果から間違った情報を引きだし、誤解を生む引き金にもなりかねません。知能テストの結果から子供のことをより正しく理解するためには、親のIQテストに関する知識もまた、重要であるといえます。