努力する子の育て方

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「アスペルガーには高IQが多い」の嘘を暴いていこう

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ここ最近うちの子のアスペルガー診断について書いてきたので、ついでにもう一つアスペルガー関連のネタを。

自分の子供がアスペルガーかもしれないと疑っていたり、実際にアスペルガーと診断されたということになれば、当然親はアスペルガー症候群についてリサーチします。私も子供がアスペ認定された親として、アスペルガー症候群やASD(自閉症スペクトラム症)についてこれまで色々と情報収集をしてきました。

そんな中で、「アスペルガー症候群の特徴」としてしばしば目にしたのが「とても知能が高い人が多い」というものです。こうした記述は専門家によるアスペルガー症候群関連の書籍でもよく見られますし、「アスペルガー症候群 高知能」で検索すれば、アスペルガーと高知能の関係性に言及している発達障害解説記事もたくさん見つかります。下の記事みたいなタイトルからしてギョッとするものもあります。

アスペルガー症候群と高知能の関係性を示唆する記述は、アスペルガーについて調べたことがある人ならきっとどこかで目にしたことがあるであろう、ありふれたものです。

うちの長男ケイも、IQテストは高スコアです。だからアスペルガーと高IQを関連付けるような記述を見て、「うちの子も特徴があてはまるな」と考えていました。しかし・・・ちょっと気になってその根拠を探し始めると、なかなか見つからないんですよ、アスペと高IQの関係性を示唆するデータが。アスペルガーの人にWISC知能テストなりをして定型発達者と比べるだけなのだから、そんなデータはすぐに見つかるはずと思うのに、全然みつかりません。

これはおかしいぞ・・・と思って良く調べてみると・・・なんと実際の研究では、「アスペルガーには高知能者が多い」なんて結論になるデータは、まったく得られていないのです。

では、実際のデータに照らして、巷に流布されている「アスペルガー高知能説」の実際のところを見ていきましょう。

 

 

「アスペルガーの人には高知能が多い」の嘘

アスペルガー症候群の人の知能指数や認知構造を調べた研究は、これまでにたくさんあります。その多くが、アスペルガー症候群と診断された人と、診断のない定型発達の人の間で、ウェクスラー式知能検査(WISCやWAIS)のスコアを比べています。もし「アスペルガーには高知能が多い」が事実であれば、まず予想されるのが「アスペルガー症候群の平均知能指数が定型発達者に比べて高い」という結果です。

論より証拠、アスペルガーと定型発達のIQテストの比較データを、実際に見てみましょう。まずはWISC-IV知能テストのテクニカルレポートの英語版です。これはウェクスラー式テストの出版元であるPearson社が作成している、WISC-IVに関する本家本元の基礎データです。

残念ながら日本語版のテクニカルレポートにはこのデータの記載がないのですが、英語版のレポート#3にはギフテッド児、ADHD児、知的障害児、自閉症児など、様々なグループの子供に関してWISC-IVを実施した結果がまとめられています。
https://www.pearsonclinical.com.au/files/TechReport3WISCIVClinical%20Validity.pdf

このレポート#3の7ページ目、Table 15がアスペルガーの子供のWISC-IVによるIQスコアを条件をそろえた定型のコントロールと比較したデータになります。見ての通り、アスペ群の全検査IQは99.2に対し、コントロールの定型群は107.1で、アスペルガーグループのIQは定型発達グループに比べてやや低いスコアになっています。全検査IQ以外の各指標についても、アスペルガーグループの方が高い結果になっているものはありません。(ちなみにギフテッド児のIQスコアはTable 1に、ADHD児のスコアはTable 9に載っています。ご興味があれば)

ウェクスラー式知能検査を使い、アスペルガーの知能指数を報告しているその他の研究結果もざっと見てみましょう。Ehlersら(1997)の研究ではアスペルガー児の全検査IQとして102.5という平均値が報告されています。ManjivionaとPrior (1999)では102.6GhaziuddinとMountain-Kimchi (2004)ではでは103.3Noterdaemeら(2010)では104.1と、アスペルガーの平均IQは、いずれもウェクスラー式知能検査の標準スコアであるIQ100とほぼ変わらない結果となっています。

海外の研究が多いですが、日本人を対象に行われた研究でも、ほぼ同様の結果が得られています。例えばKoyamaら(2007)はアスペルガー児の平均IQを98.3流王(2009)の研究では100.4という数字が報告されています。


これらの論文以外にも、アスペルガーの知能指数を測定した研究は複数ありますが、基本的にアスペルガーの知能指数が定型に比べて有意に高いと報告している研究はありません。また、全検査IQ以外の各指標に関してはアスペルガーで定型よりも高い値が報告されているケースがありますが、そうした差は研究間で必ずしも一致していないようです。

従って、IQスコアの平均値がアスペルガーで高いという事実は無く、平均値から見て「アスペルガーには高知能が多い」とは言えないと結論できます。

「アスペルガーの知能は高低に2極化する」の嘘

アスペルガー高知能説について掘り下げていくと、こんな解説も目にしました。曰く、「アスペルガーでは知能が低い人と高い人の両極に振れる」。例えば、"発達障害カウンセラー"として複数の発達障害関連著作を上梓されている、吉濱ツトムさんがそんな見解を述べておられます。

確かに、もしもアスペルガーグループのIQが高低に分離した分布をとるならば、平均値に差は無くとも、高IQを示す人の割合がアスペルガーで高くなるというケースがあり得ます。わかりやすいように極端な例として、IQ70の人が50人、IQ130の人が50人というケースを考えてみましょう。この集団の平均IQは100ですが、IQ130の人の割合は50%にもなります。

ウェクスラー式などの知能テストで測定されるIQの分布は、真ん中に一つピークがきて、そこから両側に向かってなだらかに下っているベル型の「正規分布」になります。しかし、上で想定したような低スコアと高スコアに2極化する分布は、ピークを両端に二つ持ち、その真ん中に谷ができる「二峰性分布」です。では実際の研究データ上で、アスペルガーの知能スコアの分布にそんな傾向が見出せるでしょうか?

下の図はイタリアの研究グループが集めたASDサンプルについて、各グループのウェクスラー式知能指数の分布を示したものです。アスペルガーのIQスコアの分布がほぼ正規分布をしていることがわかります(そしてIQの平均値がやはり90-100あたりにあることも読み取れます)。

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Muglia et al., 2018
より引用 (Licensed under CC BY 4.0)


さらに、日本の小中学生を対象にした流王(2009)のデータ分布を見てみると、アスペルガー児の知能スコアの分布はIQ100付近を中心として左右均等、つまり正規分布に近い分布をしています。

そもそも、これまでに繰り返し行われてきたアスペルガー症候群の知能測定を行う研究は、どれもアスペルガーと定型、アスペルガーと他のグループの比較で何か知能スコア上の違った特徴が見出せないか検討するのが目的でした。

よって、もしアスペルガーのデータ分布に差があればそれは大発見です。論文のタイトルとして華々しく紹介されてもおかしくない代物です。それにも関わらず、これまでにそうした「アスペルガーにおける知能指数の分布の違い」の報告例は見つかりません。

つまりこれまでの研究のデータからは、アスペルガーグループの知能指数の分布が、定型に比べて違う事実は見出せず、「アスペルガーは知能レベルが両極端」というのもハッキリ嘘であると言えます。

平均値にも、データ分布の形にも統計的な有意差が検出されない、こうした事実が示す結論は、「定型とアスペルガーの間に知的能力の差はない」ということです。つまり、「アスペルガーに高IQが多い」というのは嘘である、ということです。

 

 

「アスペルガーにも高IQ者がいる」という意味のない記述の問題

アスペルガーの解説書などには「アスペルガー症候群には高いIQを示す人もいる」といったことがしばしば書いてあります。しかし、これまで実際にデータで見てきた通り、高IQ者の割合やIQの平均値に、定型との特筆すべき差は見出されていません。

アスペルガー症候群は言葉と知的発達に遅れのないASDのグループです。従って、定型グループ同様に中には高知能な人が、定型と同じような割合で混じっていて何の不思議もありません。「アスペルガー症候群には高いIQを示す人もいます」という記述が持つ意味は「定型発達者には高いIQを示す人もいます」という記述と同じ。つまり、ごく当たり前のことを言っているにすぎません。

しかし、そんな風にわざわざ書かれたら、アスペルガー症候群と高いIQの間に文字通り「特筆すべき関係」があると勘違いしてしまう人も出てきてしまいます。「アスペルガー症候群は知能面で定型と差がない」という説明で十分なのに、あえて「高いIQを示す人もいる」とわざわざ書くのは誤解を招く不適切な表現だと思います。

なぜアスペルガー高IQ説がこれほど根強いのか

「アスペルガーには高IQが多い」について証拠を探して反証ばかりが見つかってきた時、真っ先に思いだしたのが血液型占いでした。血液型で性格がわかるというコンセプトは、日本社会では完全に広まって定着していますが、科学的には否定されています。

血液型占いは、そのエンターテイメント性、確証性バイアス(占いの結果に当てはまることをよく記憶してしまう)、バーナム効果(誰にでも当てはまる曖昧な占いの内容によるトリック)といった心理効果によって、根拠がないにも関わらず生きながらえていると考えられています。ではなぜアスペルガー高知能説はこんなに根強いのでしょうか?これについても、やはり色々なバイアスと勘違いによって説明ができそうです。

まず、今の日本でIQスコアを持っている人の多くは、社会での問題で悩み、検査を受けることになった人です。つまり、日本では何らかの社会的問題を抱えている人ばかりが高IQと判明するという、強いサンプリングバイアスが存在します。

そして高IQの人がアスペルガーと誤解されやすいというのは、海外での高IQギフテッドの研究からは非常に良く知られた事実です。高IQの人は平均的な知能を持つマジョリティとは認知機能が大きく違うため、社会性の問題が出やすくなるのは、ある意味自明です。

専門医のレベルであっても高IQギフテッドとアスペルガーの取り違えはよくあることだとすれば、社会適応が難しい人が単純に「アスペ」と括られる日本の一般社会において、高IQで社会性が低く見える人を一般人が「高知能アスペ」と勘違いする事例は、とても多くなると予想されます。

こうしたサンプリングバイアスと「社会性が低い=アスペ」というステレオタイプの存在により、実際にはあまりいない「高知能を示すアスペルガー」の数が、実態よりも多いように認識されている可能性が考えられます。

また「高IQかつ社会性の問題を抱えている人」というユニークな個性の人は、当然人の記憶にも残りやすくなります。そこへさらに、アスペルガー高IQ説が広まってしまったことによる、確証性バイアスが加わります。「アスペルガーには高い知能を持つ人が多い」という内容を読んだ人は「高IQで社会性の問題を抱える人」を見て「高IQのアスペが本当にいた」と認識し、さらに強く記憶してしまうことでしょう。

このように、思い込みと複数のバイアスによる血液型性格診断と同じようなメカニズムで、アスペルガー高IQ説は根拠もなく広まっているのではないかと推測します。しかし、一番問題なのはなんと言っても、影響力のある専門家が無根拠にこの風説を流布したり、勘違いするような記述をしていることにあるのではないでしょうか?

発達障害に関しては、過去にもとんでもない間違い理論が世間に広まったことはありました(「自閉症は母親の育て方が原因」というのなんて、その最たるですね)。現在もまだまだ研究途上の概念で、よくわからないことがとても多く、誤解や間違いが生まれて広まるのもしょうがないのかもしれませんが・・・正しい概念を普及するべき立場の専門家には、もう少し考えてもらいたいと思います。