「ボルダリングは思考力も鍛えられる」
ボルダリングの紹介で、よく耳にする言葉です。これはもちろん本当ですし、私自身も今までに、似たようなことをブログの中で書いてきていると思います。
しかし実のところ、何も考えないで上手くいくスポーツというのは、おそらく存在しません。サッカーでも水泳でもバドミントンでも、プレーや練習の中で「よく考える」というプロセスは間違いなく重要です。そこに「戦略性」がある限り、必ず思考力は求められます。すると、どんなスポーツをやっていても、何かしら思考力は鍛えられるということになります。
では、思考力を鍛えるという面で、ボルダリングって何が特別なのでしょう?ボルダリングが他のスポーツや習い事に比べて圧倒的に優れている点、それは子供がただ壁を登って楽しんでいるだけで、目標達成に向けて着実に進捗を生んでいくための手法であるPDCAサイクルが実践できてしまうこと。そして、PDCAサイクルを基礎としたものの考え方である、自律的なPDCA思考が自然に身についてしまうという点であると、私は考えます。
この前の記事で、PDCAサイクルについて、そして努力できる子供を育てていくためには失敗をポジティブに捉えられるよう、PDCA思考を鍛えていくことが重要であるということについて、ご紹介しました。 そこでこの記事では、ボルダリングが子供のPDCAサイクルの実践に有効である理由、そしてボルダリングを使った子供のPDCAサイクル実践法について、掘り下げていきたいと思います。
ボルダリングとPDCAサイクルの極めて高い親和性
なぜボルダリングをしているだけで、自然にPDCA思考が身につけられるのか。それは、ボルダリングという競技がそれ無くしては成立しないほど、PDCAサイクルと親和性の高いものだからです。ボルダリングをするということは、PDCAサイクルを回すことです。ボルダリングは、PDCAサイクルそのものなのです。
これはどういうことか、詳しく見ていきましょう。まずボルダリングの目的は、壁に設置された課題を登ることです。各課題は特定のホールドで構成され、クライマーはそのホールドの構成をよく観察して、どう登れば良いかを考えます。そのアイディアに基づいて実際に登ってみますが、上手くいかなかった場合には、一度壁から降りてもう一度登り方を考えます。上手くいかなかった部分をどう修正するか考え、もう一度トライする。そしてそれを、登れるまで繰り返します。
ボルダリングで課題を登る際の行動は、初心者からプロクライマーまで、誰であろうとこの一連の流れに集約されます。そして、もはや説明をする必要もないかもしれませんが、このボルダリングで課題を登るための一連の流れは、PDCAサイクルそのものです。
P(Plan:計画)ー ホールドを観察し登り方を考える
D(Do:実行)- 課題を登る
C(Check:評価)ー どこで、なぜ上手くいかなかったか確認
A(Action:改善)ー 上手くいかなかった部分の修正案を考える
ボルダリングで課題を攻略するためには、まず間違いなくこの過程を経ることになります。つまりボルダリングは、課題が登れるようにPDCAサイクルを回し続けるスポーツなのです。
短時間で何度も回せるボルダリングのPDCAサイクル
PDCAサイクルは短期間で結果のでる問題の方が適用しやすいという特徴がありますが、その点でも、ボルダリングは非常に優れています。
ボルダリグでは、壁にとりついて課題を登っている時間は大体1~2分です。つまり、P(計画)からD(実行)を経てC(評価)までいくのに、1~2分しかかかりません。仮にC(評価)で問題の洗い出しに5分かかり、A(改善)とP(計画)の部分でたっぷり5分かけて次の登り方を考えたとしても、15分以内でPDCAサイクルが一回りすることになります。
現実的にはもっと速い時間でボルダリングのPDCAサイクルは回ります。しかし、15分でPDCAサイクルが1回回るとしても、これは驚異的な速さです。ボルダリングであれば、1日で何十回もPDCAサイクルを回すことができます。
つまりボルダリングでは、課題を登る回数=PDCAサイクルを回せる回数です。子供がそんなに何度も課題を登れるのかと思うかもしれませんが、体重の軽い子供の方が、大人よりも腕や指にかかる負担が圧倒的に少なく、課題にトライする回数を稼ぐことができます。実際にジムで見ていても、子供と大人では圧倒的に子供の方が課題をこなす回数が多くなります。
このように、ボルダリングではごく短時間でPDCAサイクルを回すことができ、子供であればさらに有利にPDCAサイクルの回転数を稼ぐことができます。こうして数多くPDCAサイクルを回していく中で、失敗した瞬間に悔しさを忘れて次のトライのことを考え、失敗から学んで生かす思考パターンが身についていくのです。
結果が明快であるというボルダリングのアドバンテージ
もう一つ、PDCAサイクル実践にボルダリングが適している理由として、C(評価)の容易さが挙げられます。C(評価)に苦労しなくて済むというのは、PDCAサイクルの実践において大きな利点です。計画を実行した結果、それが上手くいったのかどうかがよくわからないというようにC(評価)の段階がつまづくと、その後のA(改善)とP(計画)の段階に進めずに、PDCAサイクルが上手く回らなくなります。
その点、ボルダリングの結果は明快です。課題をゴールまで登れれば目標達成であり、途中で落ちれば目標未達とはっきりわかります。さらに、課題のどの部分で落ちたか、失敗したかという点も、失敗して落ちたその瞬間にハッキリとわかります。C(評価)が容易であればあるほど、その後のA(改善)とP(計画)の段階も簡単になります。この点でも、ボルダリングはPDCAサイクルを学ぶのにうってつけの教材であると言えます。
ボルダリングで子供にPDCAサイクルを実践させる際に気を付けること
実際に子供にボルダリングをさせてPDCA思考を鍛えようとする場合、一つ注意すべきなのは、「子供にPDCAサイクルを回させよう」という意識を最初から親が持ちすぎないことです。
確かに、普段の生活の中でPDCA思考を鍛えていくならば、親が子供にPDCAサイクルを実践させようとする意識は大切です。しかし、ボルダリングの場合、それはそこまで必要ありません。なぜならば、ボルダリングは何も意識しないでもPDCAが実践できてしまう代物なのです。子供がボルダリングを続けてさえいれば、そのうち間違いなくPDCAサイクルは回り始めます。
つまり、ボルダリングでPDCAサイクルの実践を行う場合、親が最も注力すべきなのは、子供がボルダリングへのモチベーションを失わず、楽しんで登り続けられるようにするという一点のみです。
子供が失敗の理由を考えず、D(実行)→D(実行)→D(実行)と繰り返していても、最初から焦る必要はありません。登る前に登り方を考えるP(計画)の段階がなくても、同様です。ボルダリングで上手く登りたければ、PDCAサイクルを回すのはいずれ避けて通れなくなる道なのです。ボルダリングが楽しくて、ボルダリングを続けたい、もっと登りたいというモチベーションがある限り、必ず近いうちにPDCAサイクルは回り始めます。
やはり親がサポートするのはC(評価)→A(改善)の部分
前回の記事で、子供のPDCA実践では、子供が失敗して悔しがるといったC(評価)の段階を捕らえてA(改善)につなげていくのが大事というお話をしました。ボルダリングを使ってPDCAを実践していく場合でも、これは全く同じです。
例えD(実行)→D(実行)→D(実行)と繰り返していた子供であっても、「上手く登りたい」という気持ちがあれば、いつかは上手く課題が登れないことを悔しがったり、悩んだりする瞬間が訪れます。その瞬間が、やはりPDCAサイクル実践をスタートする絶好の機会です。どうしたら登れるか考えることの必要性を伝え、C(評価)→A(改善)の流れを作っていきましょう。子供にC(評価)→A(改善)の必要性を繰り返し経験させることで、次第にC(評価)→A(改善)→P(計画)→D(実行)→C(評価)→A(改善)・・とPDCAサイクルが回り始めます。
ボルダリングの中でPDCAサイクルが回るようになると、失敗への意識というのは劇的に変わっていきます。そして、PDCAサイクルを回すことで課題が登れるという体験を積んでいくことで、子供はPDCA思考の有効性を学び、常にPDCAサイクルを回しながら壁を登る状態が完成していきます。
PDCAサイクルの実践で育つ「自分で考える力」
ボルダリングの中でPDCAサイクルを回し続けると、PDCAサイクルは急速に自律化していきます。そのうち親のサポート無しに、自分一人でPDCAサイクルを回していけるようになります。PDCAサイクルを自分一人で回せるということは、つまり自分でC(評価)し、A(改善)を意図してP(計画)を考えるというプロセスを自分でこなせることを意味します。つまり、PDCAサイクルの実践からは、自分一人で内省し、自分で考える力もまた育まれていくということになります。
ボルダリングは子供にとって最強のPDCA学習ツールだと思う
子供にPDCAサイクルを実践させるという点で、ボルダリングよりもPDCA実践に有利なスポーツが存在するだろうかと考えてみましたが、ボルダリングほど手軽に、効果的にPDCAサイクルを回せるものは、今のところ思いつきません。大人であれば筋トレもかなりPDCA向きだと思いましたが、子供に筋トレは残念ながら向いているとは言えません。
「ボルダリング育児最強説」というこのカテゴリのネーミングは、半分ネタとしてつけているものです。しかし、子供にPDCAサイクルを実践させるための教材としては、ボルダリングが本当に最強なのではないかと、今のところ結構本気で考えています。