努力する子の育て方

努力に勝る才能無し!努力の才能を育てる教育法、ボルダリングによる育児ハック実践、我が家の超個性的なギフテッド児の生態など

理論から学ぶ「やる気スイッチ」のメカニズム・前編

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行動を起こし、努力を続けていく上で、やる気・モチベーションは絶対に必要なものです。モチベーションさえあれば大体何でも継続していけますし、無ければ、他に何があってもどうしようもない、それくらい、モチベーションは人間の行動を生み出す根源的な存在です。ですから、努力する子を育てていく上で、人間のモチベーションについて理解することは、非常に大切なことです。

「やる気スイッチ」、塾のCMにも使われていたフレーズです。育児や教育で、子供のやる気をスイッチオンできたなら、あとは大体なんとかなると言われます。それは実際そうなのです。しかし、やる気スイッチなんてものは、実際あるのでしょうか?あったとして、それはどうやったら押せるものなのでしょうか?

心理学の分野では、人間のやる気・モチベーションを説明する理論として、「動機付け理論」というものが発展してきました。そこで今回は、やる気スイッチが実際どんなもので、どんなメカニズムで動くのか、というのを見ていく前段階として、まずこの動機付け理論で人のモチベーションがどんな風に説明されているか、という部分を見ていくことにしましょう。

 

 

 

外発的動機付けと内発的動機付け

動機付けとは、やる気・モチベーションを意味する専門用語です。歴史的に、モチベーションのメカニズムについて説明する動機付け理論研究は、労働者の職場におけるモチベーションをどのように向上させるか、という問題意識からスタートし、その後より様々な状況でのモチベーションを説明する、汎用性の高い理論の構築が試みられてきました。

動機付け理論の研究において、人間というものは長らく「何ら必要性がなければ基本的には何もしないぐーたらな存在」であると考えられてきました。この「必要性」とは、例えば危険を避けるために逃げる、報酬を手に入れるために仕事をする、といったことです。

しかし、まあ直感的に「そこまで人間はぐーたらではない」と思いますよね。実際に、それだけでは人間のモチベーションは説明できないことを示す実験結果が得られてきます。その有名なものがHeronの感覚遮断実験です。

この実験では、被験者にヘッドホンとアイマスクをして腕と指先も覆ってしまい、温度湿度が快適に保たれた部屋のベッドに1日中横になっているだけの「仕事」を依頼しました。報酬は平均的な日給の2倍。飲食物も十分に提供され、被験者は生きていく上では何不自由ない状況で過ごすだけで、高額報酬を得られる状況です。

必要性がなければ行動しないというのが人間の性質であれば、生理的欲求が満たされ、報酬も十分なこの仕事をずっと続けていられるはずです。しかし、ほとんどの被験者が、数日でこの仕事をやめてしまいました。つまりこの実験では人間に、必要性に迫られなくとも行動したり刺激を求めるモチベーションがあるということを示しました。

その後様々な実験で、人間には(そしてその他の動物にも)報酬や罰といった外的要因や生理的な必要性とは全く無関係に、行動することそのものを目的として行動するというモチベーションの存在が示されていきます。そして、こうした「行動することそのものへのモチベーション」は「内発的動機付け」と呼ばれ、「行動すること以外の他の理由からのモチベーション」である「外発的動機付け」と区別されることになりました。

内発的動機付けは、「やると楽しいor面白いからやる」というモチベーションです。つまり、非常に自律的で、さらに自己促進的です。「やる→楽しい→もっとやる→楽しい→・・・」という無限ループが容易に形成されるので、その行動を継続させる上では、理想的なモチベーションの状態と考えられます。一方、外発的動機付けは、「何かやる理由や必要性があるからやる」という状況です。つまり、その理由や必要性が消滅すれば、無くなってしまうモチベーションです。

 

 

 

自己決定理論=自分で決めている方がモチベーションが高い

「自己決定理論」は、人間のモチベーションの基礎理論として、現状一番汎用性が高いと考えられている動機付け理論です。この自己決定理論は、それまで全く別物として扱われてきた内発的動機付けと外発的動機付けを、連続的なものとして捉える枠組みを作り出しました。

自己決定理論では、動機付けの状態を「自己決定性」によって分類します。自己決定性は「自分で決めた度合」のことで、「自律性」と考えても大体同じです。内発的動機付けは、非常に自律的で、最もモチベーションが高い状態です。そして、外発的動機付けは、基本的に非自律的な動機付け状態であり、内発的動機付けと比べて、モチベーションは低い状態です。

しかし自己決定理論は、これまで単純に非自律的とみなされてきた外発的動機付けの中に、より自律的な状態と非自律的な状態を見出しました。そして、自律性の度合いによって、全く動機付けのない「無動機」の状態から、「外的調整」「取り入れ的調整」「同一化的調整」「総合的調整」というように、次第に自己決定性が高くなり、段階的に内発的動機付けに近づいていく、という連続的な枠組みを提案しました。少々わかりづらいと思うので、↓の図にまとめてみました。

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Ryan and Deci 2000; Deci and Ryan 2002より引用・改変

内在化による自己決定性の上昇プロセス

では、自己決定性の違う各段階間の移行は、どのように起こるのでしょうか?これは、「内在化」と呼ばれる過程を経るものと考えられています。内在化とは、外部の価値観や考え方を取りこんで、自分のものとする過程です。例えば、親に怒られたくない一心でやっていたことを「これはやらなきゃいけないことだ」という義務感を感じて取り組むようになる。これは、その行動の価値を内在化し、「外的調整」の段階から「取り入れ的調整」の段階へ移行したものと言えます。

また、「やらないといけないことだ」と義務感からやっていたが、ある時を境に「これをやることが自分の将来のためになる」ということに気づきやるようになった、というのも、やはり行動へのさらなる価値を内在化し、「取り入れ的調整」の段階から「同一化的調整」の段階へ移行が起こったと言えます。

このように、行動の価値や新しいものの考え方を内在化していくことで、自己決定性が低く、モチベーションも低い状態から、より自己決定性もモチベーションも高い状態に移行していくと、外発的動機付けの中であっても、最後は内発的動機付けのように自律性の高い「統合的調整」の段階へと移行していきます。

自己決定理論の枠組みでやる気スイッチについて考える

さて、少々小難しい話でしたが、今一番普及している動機付け理論の「自己決定理論」で人間のモチベーションがどう説明されているかを見ていきました。それでは、この自己決定理論から見て、やる気スイッチというものは、どこにあって、どんな風に押せば良いものなのでしょうか?記事の後編では、実際にそれを考えていきたいと思います。

 

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