映像記憶能力は、目で見たものをそのまま絵として記憶しておく能力です。瞬間記憶、直感像記憶、カメラアイ、フォトグラフィックメモリーとも呼ばれています。
映像記憶能力を持つ人は珍しいと言われます。しかし、本人にとっては「当たり前のこと」で、特別な能力だと感じずに使っているため、映像記憶能力を持っていることに本人が気づいていないというケースもあるようです。
うちの長男ケイには、この映像記憶能力があると思っています。今日はこのケイの特殊能力に気づいた経緯について書いていきましょう。
千と千尋事件
ケイの記憶力が抜群に良いことは、幼稚園の年中あたりですでにわかっていました。しかし、その覚え方の特殊さに気づいたのは、ケイが年長になったある日のことです。就学を数か月先に控えて、小学1年生で習う漢字の一覧表を一緒に眺めていた時のこと。
ケイ「この漢字はなに?こっちは?これは?」
父「これは十だね、これは百だね、これは千だね」
ケイ「ああ、この千って字、前に映画に出てきた!チヒロと、魔女のおばあさんが出てきて、魔女が文字をぶっ飛ばしてさ~そうか~これはセンって漢字なんだね~」
一応説明すると、ケイが突然説明し始めたのは「千と千尋の神隠し」の中で、千尋が魔法使いの湯婆婆に名前をとられ「千」になってしまうシーンのことです。
・・・この時の背筋がゾッとした感覚は、今でもよく覚えています。どうやったら、意味と読みを知らない漢字のことを覚えていられるのだろうか?しかも、読みを聞いて後から形と紐つけるなんて、できることなのか・・・。そもそも「千と千尋の神隠し」は、だいぶ前に家と幼稚園で一度ずつ見ただけです。特にお気に入りというわけでもなく話題に出てきたこともなかったのに、まさかその中に出てくる知らない字をシーンごと覚えているとは・・・。
読みも意味も知らない文字を覚えておくためには、その文字の形そのものを脳裏に焼き付ける以外にありません。つまり、映像記憶能力の成せる業です。これが、ケイには映像記憶能力があるのではないかと考え始めたきっかけでした。
チラ見したドラマのオチをネタバレ事件
「千と千尋事件」から数週間後のこと。その日はケイのお風呂が遅くなり、寝るための準備を急かしていました。テレビには、いつも録画しているサスペンスドラマ。普段ケイは目にしていない、遅い時間の番組です。ケイは、その日のサスペンスの最後の核心部分を横目に、着替えと歯磨きを急かされていました。
そのまた後日、その時録画したドラマを、ケイが遊んでいる横で見返し始めた時のことでした。番組冒頭を目にしたケイが、
「あ、それ、この間見たよ。この人の体にこんなマークがあって、この人が犯人ってなってた」
とドラマのオチを詳しくネタバレし始めたのです。見始めたドラマを即ネタバレされた悲しみと共に、またすごい衝撃が襲ってきました。ドラマの冒頭を、間違いなくケイは見ていません。ですからケイは、覚えていた犯人役の顔を手掛かりに、目にしたドラマの最後の部分を思い出したということになります。犯人役は、親も名前を知らない俳優さん。おまけに、「こんなマーク」は、空中に指で描いて説明してくれる始末。これは間違いなく映像記憶能力だと、疑問が確信に変わった瞬間でした。
映像記憶能力は珍しいのか、それとも気づくのが難しいだけなのか?
ケイの映像記憶能力を発見した経緯を書いていて思ったのですが、私たちがケイの映像記憶能力に気づいた経緯には、かなり色々と幸運な(?)条件が重なっていますね。
まず、私たちがケイの映像記憶能力に気づけたのは、ケイがADHD様の非常に多弁な特性を持っているためです。ケイが頭に思い浮かんだ内容をそのまま口から垂れ流してくれたり、何も気にせずドラマのオチをペラペラしゃべってくれたからこそ、その映像記憶能力に気づくことができました。もしケイが少し頭の中で考えをまとめてから話す子だったり、ドラマのオチをネタバレしない空気の読める子だったりしたら、恐らく映像記憶能力に関して、これだけ確信は持てていないでしょう。
また、上に書いた2つのエピソードはどちらも、ケイの漢字知識や語彙力がまだ未熟だったからこそ、映像記憶の存在が浮き彫りになった例です。もしケイが千という漢字を学習済みであったなら、またもしケイが「こんなマーク」を言語的に違和感なく説明できていたならば、やはり映像記憶の存在には気づけなかったと思います。
つまり、子供が成長していくと、映像記憶の存在に気づくチャンスは低下するという側面があります。「目で見たものは一切忘れない」とか「一瞬見ただけの物を後になって詳細に思い出せる」といった誰が見ても普通でないレベルの記憶力であれば、成人後でもその記憶プロセスの特殊さは簡単に気付かれると思いますが、うちの子のような「記憶力が抜群に良い」程度の場合には、その記憶プロセスの特殊さに傍から見て気づくことは、結構難しくなると思います。
だとすると、映像記憶能力の存在を幼少期に誰にも気づかれず、大きくなって「当たり前のこと」として使っている人が、想像以上に多くいる可能性も結構あるかもしれませんね。
成長と共に映像記憶能力は無くなるというのは本当だろうか
映像記憶力について調べると、「成長し、言語能力が発達するにつれて失われていく」という情報がありました。言語が発達すると記憶するときに言語情報、意味情報が利用できるようになるため、絵を覚えておく必要性がなくなるという話です。
しかし上記の議論の通り、やはりこれには少なくとも2つ可能性があると考えられます。一つは本当に映像記憶能力が失われる場合、もう一つは、言語の発達により映像記憶能力の検出がより困難になる場合です。
とても興味深い問題なので、ケイの映像記憶能力がどうなっていくか、今後も注目して見守っていきたいと思います。
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