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ギフテッドにすり寄るIQテストビジネスにご用心(2/3)

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前回の記事では、一般財団法人高IQ者認定支援機構(HIQA)という団体がそもそも「『知能』と『知能テスト』をまともに理解していない」という点を指摘しました。

 

 

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これだけでもうその活動内容に信ぴょう性がないと考える根拠としては十分ではありますが、ここではさらに、この団体が高IQ者認定に使うCAMSという知能テストの抱える問題点について、具体的に見ていくことにしましょう。

使用実績もまともな検証もされた形跡ゼロなCAMS

高IQ者認定支援機構が高IQ者の認定に用いられるCAMS(Cognitive Ability Measurement Scale)、CAMT(Cognitive Ability Measurement Trial)と呼ばれるテスト、これはこの財団法人の業務執行理事に名を連ねる幸田直樹さんという方が独自に制作されたもののようですが、なんと、査読付きの学術誌に発表されたり、第三者に利用・検証された形跡がこれまでにまったくありません。

個人が勝手に作ったなんの検証も経ていないIQテスト・・・それをいきなり事業に投入している時点で、この団体の活動がまともでないことは明らかですが・・・我慢してもう少し見てみると、このCAMS・CAMTには予想通りたくさんの問題点がみつかります。端的に言ってしまえば、このCAMS・CAMTというのは、ネットでみつかる根拠不明の「自称IQテスト」に毛が生えた程度のもので、とても信頼できる知能テストとは考えられません。その理由を、以下で解説していきましょう。

 

 

正式な知能テストと"IQテスト風パズル"の違い

ネット上で楽しめるIQテスト風パズルと臨床や研究で利用される発達検査やIQテストは、一見似たようなことをやっているように見えるかもしれません。しかし、人間の知能とその発達段階を測るというその目的に照らした時、両者の間にはあまりに大きな違いがあります。

正式に広く採用されている知能心理検査にあって、その他のIQテスト風パズルに無いもの。それは心理理論に基づく体系的デザインです。ビネー式でもウェクスラー式でもK-ABCでも、広く受け入れられて用いられている発達検査やIQテストは、そのデザインの裏に科学的根拠を持つ発達理論や知能理論が必ず存在しているのです。

例えば、WISCやWAISなどのウェクスラー式知能テストは、その理論背景としてCattell-Horn-Carroll理論(CHC理論)と呼ばれる知能理論を採用しています。知能の一般因子(g)を結晶性知能と流動性知能の2因子で説明しようとしたCattell、そのCattellの理論に他の因子を加えて拡張したHorn、そして知能の3階層説を主張したCarroll、3者の理論を統合して人間の知能を構成する因子構造をモデル化したのがCHC理論です。

例えばWISC-IVでは、このCHC理論に基づいた知能因子を測定するために、言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリ―指標、処理速度指標を設定し、各指標を測定するための検査内容へと落とし込みを行っています。

知能理論に基づいて知能テストを作製することの重要性

人間の知能を完全にモデル化することはできないのだから、不完全な知能理論に基づいた知能テストを作っても意味がない、と考える人もいるかもしれません。確かに完全な知能理論は存在しません。しかし、不完全な知能理論だからそれに沿う意味がないかといえば、それは大きな間違いです。

知能テストを知能理論に基づいて作製する最大の意味、それは知能テストの有効範囲と限界を明示し、さらに検証可能にすること、つまり、どういう理屈で何を測定しているかを明確化し検証可能にすることで、その知能テストを科学の土俵に乗せるということです。

基盤とする知能理論を明確化することで初めて、その知能テストが①人間の知能のどこまでを、②どのような方法で、推定しようとしているかが客観的に明確化されます。そしてさらに、その推定のためのためにデザインされた個々の検査が有効であるかどうかが、検証可能になります。

例えばWISC-IVはCHC理論に沿って作製されていますが、CHC理論が仮定するすべての知能因子を測定しているわけではありません。CHC理論の中でWISC-IVが測定できていないとされる因子には、例えば「読み書き」があります。さらに、CHC理論に沿っているWISC-IVでは、CHC理論に含まれない「創造性」や「感情制御」といったものは測定対象になっていません。

このように、知能理論に沿って作製された知能テストでは、その適用範囲と測定の限界が明確です。そして実際に、WISCテストのCHC理論への適合性や各因子を推定する上での各検査内容の有効性などは、様々な角度から検証され続けています。どれくらい細かく検討されているかは、WISC-IVのテクニカルレポートを見ていただくとわかりやすいと思います(例えば#8は、WISC-IVの因子構造がどの程度CHC理論に沿っているかを検証しています)。

WISC-IV知能検査 テクニカルレポート | 心理検査 | 日本文化科学社


こうして改めて見ると、ウェクスラー式知能テストは本当によく考えて作られているなと、個人的に思います。

なんの科学的根拠も持たないCAMSの有効性

さて、では本題の、CAMSというIQテストがどんな知能理論に基づいて設計されているかを見ていきましょう。すると、それと思しき記述は、「IQについて」のページのこの一文のみしか見当たりません。

CAMSでは、測定対象とするg-factor(一般知能)を「時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力」としています。

これは、前回の記事でどれだけトンデモかを解説した一文です。つまり、CAMSがなんらかの知能理論背景を持つとすれば、それは一般性知能(g)を根本から誤解している人が考えた、「時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力」を「人間の知的活動全てに関わる共通因子である」と考えてしまう、ちょっと普通に考えただけで「それは無い」と気付けるようなトンデモ理論ということになるでしょう。

ちなみに、「時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力」というような一般性の低い、テスト課題に限定的な能力は、CHC理論などの知能理論においては一般性知能(g)の最も些末な構成因子である「特殊因子(s)」としてまとめられています。そのような小さな構成因子を、最も上位の因子である知能の一般因子(g)と同列に扱う、この財団のような理屈を正当化する研究結果というものは、もちろん存在しません。

財団のサイトをみると「CAMSは思考力の測定を使命としている」なんて書いてありますけど、そこにまともな理論的裏付けは見出すことができません。つまり、この財団が主張しているCAMSの有効性は、客観的な根拠のない、テスト製作者の勝手な思い込み(妄想?)である可能性が極めて高いといえます。

以上のような理由から、CAMSはまともな知能理論背景をもたない、ネットに溢れる有象無象のIQテスト風パズルと変わらない代物であると言って問題ないと考えられます。
 

当初記事2つ分で終わる予定だったのですが、ちょっと突っ込みどころがありすぎて、2つでは終わらなくなってしまいました。急きょ3分割にさせて頂いて、次の記事でも引き続き、一般財団法人高IQ認定支援機構とCAMSの問題点について、さらに指摘していきたいと思います。

*2019年9月6日追記*

先日確認したところ、この記事で突っ込みをいれた高IQ者認定支援機構のg-factorに関する記述が削除されていました。記述を消しても結局CAMSの知能テストとしての有効性を示す客観的証拠は財団サイトで一つも提示されていないので、この記事の内容の有効性にはとくに変更はありません。リアルタイムでこの財団のサイトを見られなかった人のために、ここには修正前の財団サイトのスクリーンショットを引用しておきます。

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