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ギフテッドにすり寄るIQテストビジネスにご用心(3/3)

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これまでの記事で、一般財団法人高IQ者認定支援機構(HIQA)が事業に用いるCAMSが、知能や知能テストについてまともな知識がない人の作った、全く信頼できないものであるということを論じてきました。

 

www.giftedpower.net

 しかし、CAMSに見られる問題点は、まだまだたくさんあります。そもそもまともな知識のない人が作っているので仕方のないことではありますが・・・。

そして、一般財団法人高IQ者認定支援機構の活動の胡散臭い点は、このCAMSの問題点とはまた別のところにもあります。そこで今回は、この団体の活動内容に関するおかしな点についても、諸々論じていきましょう。

CAMSの更なる欠陥:多分に学習と練習に依存する図形行列推定課題

団体のサイトで説明がある通り、CAMSは図形を使った行列推定問題です。この図形行列推定課題を用いるテストは空間的推論課題とも呼ばれ、いわゆる「IQテスト風パズル」として最もポピュラーなものです。MENSAの入会試験もこの形式ですね(つまりこれ以降紹介するCAMSの問題点は、MENSAのテストにも当てはまります)。

この図形行列推定は言語に依存せず、普段の生活上は触れることのない意味のない抽象的な推論を行う課題であることから、学校での学習や知識などに依存しない、「新しい問題を解く力」「知識に依存しない思考力」などの推論能力を測定しているものと数十年前は考えられていました。

しかし、ここ20年ほどの研究結果から、この図形行列推定課題を解く過程では、過去に解いた問題に使われていたロジックの知識、記憶要素が利用されていることが示されています。

https://www.researchgate.net/publication/251432534_The_induction_of_solution_rules_in_Raven's_Progressive_Matrices_Test

さらに図形行列推定課題が記憶や知識に依存していることと一致して、この種のテストのスコアは繰り返しや練習によるパターン学習、得点戦略の獲得によって、一般性知能(g)と関係なく非常に簡単に上昇してしまうことが明らかになっています。

例えば図形行列推定テストの代表格であるレーヴン漸進的マトリックステストは、心理学分野で使われる認知能力テストの中でも、とりわけ練習効果によるスコア上昇の影響が大きいことが知られています。テストを繰り返し受けるとすぐにテストスコアが上昇し、その上昇は繰り返すこごとに大きくなり、かつ持続してしまうのです。

The effect of practice on Raven's Advanced Progressive Matrices - ScienceDirect

A knowledge-based theory of rising scores on "culture-free" tests. - PubMed - NCBI


そして、図形行列推定テストを繰り返し解くことで起こるスコア上昇は、一般知能(g)と逆相関するということが示されています。この結果は、行列推定テストの点数上昇は、そのテスト形式特有のパターン(スピアマン博士の言う特殊的知能(s))の学習効果の反映であり、知能の上昇を反映してはいないということを意味しています。

https://www.researchgate.net/publication/222529059_Score_gains_on_g-loaded_tests_No_g

Do We Really Become Smarter When Our Fluid-Intelligence Test Scores Improve?

 

こうした類似問題の反復で得られる練習効果によるスコア上昇は、レーヴン漸進マトリックステストだけでなく他の様々な図形行列推定課題にも共通の特徴です。図形行列推定課題は、問題作製に使われるロジックパターンが限られているため、テスト形式特有のパターン学習の効果が顕著に出てしまうのです。つまり、学習効果への脆弱性は、図形行列推定という課題形式そのものが抱える問題点です。

さらにもう一つ、この学習効果問題をさらに深刻にしているのが、図形行列課題のパズルとしての嗜好性です。図形行列推定は、いわゆるネットで楽しめる「IQテスト」のほとんどで用いられているテスト形式です。つまり、パズルみたいで面白い課題なので、人気があるんですね。

従って、このテストの類似問題を好きで繰り返し解いている人は、この時代全く珍しくありません。すると、そういった趣味で図形パズルを解いている人の図形行列推定テストのスコアは学習効果で盛大に汚染され、「知識に依存しない思考力」を反映しないスコアになってしまっているということになります。

過去にどれだけ図形行列パズルに親しんできたかという点は、CAMS受検に際して何の考慮もされないようです。つまり、図形行列推定テストであるCAMSのスコアは、似た形式のパズルが好きで繰り返し楽しんできた人ほどパズル知識の学習効果で高く出やすい、パズルマニア指数としての意味が強くなるものと予想されます。

一般財団法人高IQ者認定支援機構のサイトを見ると、「(知能の)変動しにくい部分を出来るだけ正確に測定することが知能検査に求められます」などと書いてありますが・・・以上のような理由から、CAMSが思考力や人間の知能の変動しにくい部分をきちんと測定できている可能性は、限りなく低いと言えるでしょう。

一種類の課題で人間の知能が測れると考える浅はかさ

そもそも、図形行列推定課題一種類で人間の知能を測ろうとすること自体が、極めて非科学的かつ、稚拙なアイディアと言わざるを得ません。CAMSは図形行列推定というたった一種類のテスト課題しか含んでいないため、学習効果の影響が非常に強く出てしまう図形行列推定の問題点が、そのままダイレクトにスコアに影響してしまいます。

さらに、図形行列推定課題は人間の知能の本当に一部しか測っていないと考えられています。例えばレーヴン漸進的マトリックステストでは、知的障害を伴うASDの人でも、定型発達者と遜色のないスコアをとることが知られています。

The Level and Nature of Autistic Intelligence

というか、たった一種類のテストで人間の知能を上手く測れるかどうかと問われたら、まともな思考力を持っている人ならば、まず"YES"とは回答しないと思うのですが・・・CAMSで「高IQ者」の認定をしようとしている一般財団法人高IQ者認定支援機構の知能や知能テストに関する知識は、一般的な想像を超えて足りていないのかもしれません。

もしそうでないとしたら、CAMSのクオリティ、CAMSが本当に人間の知能を測定しているかどうかなんて、この団体には実際どうでもいいことなのだろうと推測されます。そうでないと説明がつかないくらい、CAMSの知能テストとしてのデキは、問題が多くて、粗悪なのです。

 

恐らく一番の突っ込みどころ、「標準化」の問題

これまでの内容で、CAMS、CAMTが人間の知能(gスコア)を測定している信頼性あるテストでは全くない、ということの証拠が十分積みあがったと感じています。しかし、CAMSのスコアの信頼性には、もう一つ、非常に大きな突っ込みどころが存在していると考えられます。「標準化」の問題です。

臨床や心理研究で用いられるウェクスラー式IQテストでは、IQはデータの正規性と標準偏差を利用したIQ(DIQ)として示されます。これは、多くのテスターを使ってテストスコアの頻度を調べ、そのデータを利用してテストの内容を調整する「標準化」の過程を経てはじめて可能になります。

標準化はIQテスト作成のキモとも呼べる作業ですが、多くの被験者からデータを集めなければならず、非常に大掛かりな作業となります。しかし、この作業の質がIQテストの信頼性に直結するので、一般的に多くの人が関わって、数年間かけて慎重に進められます。

では、CAMSではどんな標準化が行われているのでしょうか?なんと、その情報が2019年8月6日現在、未だに公開されていません。標準化の方法が検証可能な形で公開されていないIQテストは、その点だけでもう信頼に値しない代物です。

しかし、仮に今後CAMSの標準化手法が公開されるならば、恐らくその標準化の部分もまた、CAMSというテストの信頼性を単独で失墜させるのに十分な問題を含んでいると予想されます。これは、CAMSというテストが標準偏差15でIQ185という高域までの測定を謳っていることから予測される問題ですが・・・それについては、CAMSの標準化手法が公開された後で、具体的に指摘していきたいと思います。

一般財団法人高IQ者認定支援機構(HIQA)の活動内容に見る矛盾

さて、この団体が用いるCAMSがいかに信頼できない"IQテストモドキ"であるかという点に触れてきましたが、この団体の活動の胡散臭い点は使うテストの問題だけに留まりません。

例えば、一般財団法人高IQ者認定支援機構の事業目的は、「高IQ者」という才能の発見とその支援であるとウェブサイトでは説明されています。実際、ウェブサイトの色々なところに「特別な適性を持つ人材」という言葉が散見されます。しかし、サイトのどこを見ても、この「特別な適性」がいったいどんな能力なのか、明らかにされていません。

過去のブログ記事でも触れてきましたが、高IQ(特に一定のレベルを超える高IQ)と創造性や社会におけるパフォーマンスの間には、大して相関が見られないということが過去の研究から繰り返し指摘されてきています。 従って、この団体が何を根拠に「高IQ者は特別な適性を持つ人材である」としているかは、大きな疑問です。www.giftedpower.net
さらに、この団体の活動内容を見ると、高IQ者の検定に関する情報は充実している一方で、この財団が掲げる「高IQ人材が社会で活躍する道筋を作る」という部分についての内容が何も書いていなくてびっくりします。一応高IQ者認定された人に関して「希望者には企業からのサポートを優先してうけられます」なんて書いてありますけど、何がサポートで、一体何に対して「優先」なのかは、一切不明です。

そもそも、高IQ者が社会にいて、十分活躍できていないという問題を既に認識できているのであれば、一番最初に充実させるべきは高IQ者を見つける方法ではなく、どうやって高IQ者を社会で活躍させるかという具体的な方法のはずです。

例えば、高IQ者にはどんな適性があるかを社会に広めるというだけでも、今活躍できていない高IQ者に活躍の道を開く活動になるはずなのですが、この団体はその適性の内容すら明言していません。高IQ者に社会での活躍機会を増やすことを本当に考えているのならばまず真っ先に取り組むべき活動を、この団体はずいぶん軽視しているようです。

高IQ者に「特別な適性」があるといい、それを社会で生かす道筋をつけるという事業目的を掲げながら、実際のところ熱心に取り組んでいるのは知能テスト(モドキ)CAMSによる検定料徴収とスコア通知のスキームだけ、というこの団体の活動の現状には、この団体の本当の目的が、非常にハッキリ示されているといえるでしょう。

 

この団体の存在自体が知能テストとして機能している可能性

ここまで読んで、「この高IQ者認定支援機構は一般財団法人だから、その活動内容がそんなに浅慮なはずがない」とか、「テスト製作者の幸田さんは慶應義塾大学SFC研究所所員だから、その知識や研究内容がそこまでおかしいはずはない」とか思ってしまっている人が、いたりはしないでしょうか?

一般財団法人というのは「公益財団法人」とは違い、書類上の設立要件さえ満たせば誰でも作ることができます。そして、一般財団法人の設立要件の中に、その活動内容の審査過程は一切ありません。つまり、一般財団法人という団体の肩書は、活動内容のまともさを全く保証しません。

また、CAMS製作者の幸田直樹さんの「慶應義塾大学SFC研究所所員」という肩書は、慶應義塾大学に雇われた「慶應義塾大学所属の研究者」とは全くの別物です。慶應義塾大学SFC研究所所員は、慶應義塾大学所属の研究者を通じて申請し、登録料(年間5万円)を支払うことで手に入るメンバーシップに近いものであり、幸田さん個人の研究内容、研究能力を保証するものでは全くありません。そして、これまでに幸田さんが研究の世界できちんとしたトレーニングをうけたり、何か成果を発表された形跡は、一切見当たりません。

受入れ申請について | 慶應義塾大学SFC研究所

※ご注意※

『慶應義塾大学SFC研究所 上席所員』および『慶應義塾大学SFC研究所 所員』という呼称は「慶應義塾大学SFC研究所の実施する研究に参加させる目的でSFC研究所が受け入れる研究者」を示すものであり、慶應義塾との雇用関係を示すものではありません。


表面的な肩書にごまかされ、内容のおかしさに気づけないとすれば、それは論理的に物を考える力の低さを反映していると考えられます。よって、この団体の説明を疑わずに信用し、その「高IQ者認定」に価値を見出すこと自体が、物を考える力、すなわち「思考力」が高くないことを示す一つの指標になると考えられるでしょう。

そういえば、CAMSの使命は「思考力の測定」だなんて、団体のサイトに書いてありましたね・・・もしかしたら、この一般財団法人高IQ者認定支援機構という存在自体が、この社会に向けて投げかけられた、思考力の低さを検出するタイプの知能テストなのかもしれません。

*2019年10月20日追記*

この一般財団法人高IQ者認定支援機構について、その後のアップデートを含めた記事を公開しました。 

www.giftedpower.net