努力する子の育て方

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ギフテッドにすり寄るIQテストビジネスにご用心(1/3)

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このところ忙しくてブログがほったらかしになっていたのですが、とある筋から面白い話を聞きました。曰く、「高IQ者を認定して支援すること」を事業内容として掲げる民間団体が日本に発足したという話です。「なんだそれ?」と興味を持って詳しく聞くと、どうやら突っ込みどころ満載の「IQリテラシー案件」である可能性が高いとのこと・・・。

その団体は、もう活動を始めているというので早速ウェブサイトを見てみましたが、まごうことなきIQリテラシー案件でした。まあ、小耳にはさんだだけで胡散臭い話ではあります。しかし、先日(といってももう一か月も前ですが)の記事で書いた通り、IQやIQテストに関する一般的な理解、リテラシーというものは、あまり広がっていません。こんな稚拙な商法でも見抜けない人は見抜けない可能性はあると感じました。

そこで、この団体の活動内容の問題点を指摘しながら、人間の知能やIQテストについて、また少し詳しく解説していきたいと思います。

一般財団法人高IQ者認定支援機構

さて、早速その問題の団体について、正体を明かしていきましょう。この団体は「一般財団法人高IQ者認定支援機構」という一般財団法人です。すでに活動内容を記したウェブサイトも公開されており、9月には第一回目の「高IQ者認定テスト」も予定されています。

https://www.hiqa.or.jp/


世の中には、高IQの人しか入れない高IQ認定団体が数多く存在しています。一番メディア露出の多い有名なものは、やはりMENSAでしょうか。MENSAは人類のIQ上位2%しか入れない団体と謳っています。他にも、入会に必要なIQスコアの高さが違う、様々な団体があります。興味のある方は「高IQ団体」とか"High IQ societies"で検索してみるとボコボコ出てくると思います。

高IQ団体というのはほとんどの場合、IQテストという名の謎解きパズルの愛好家や、自分のIQスコアに異常な執着を示す、同じ様な趣味や価値観を持った人達の社交の場、同好会として機能しています。

しかし、この一般財団法人高IQ者認定支援機構という団体は、そうした勝手に活動しているだけの同好会的な高IQ団体とはかなり毛色が違います。それは、「高IQ者の認定」を社会で「事業」として行う団体であると謳っている点です。つまり、文字通り捉えれば、日本における「高IQ者の認定機関」を目指しているというわけですね。

以下には、サイトのトップページから設立趣旨などを引用しておきます。

当機構は高IQ者の発掘を通じて、わが国の国家間競争力の強化に資すること、高IQ者の暮らしやすい社会を実現することを使命とし、​以下の事業を行います。

    高域IQ検査の研究開発および実施

    高IQ者の認定および支援

    高IQ者の育成ならびに活用環境の整備

 

 当機構は人材の発掘にとどまらず、​社会で活躍できるまでの一連の環境づくりに取り組みます。​「発掘」と「活用」の両方が、​わが国の成長のために、また、国際社会での競争激化への対応のために、必要だと考えています。

ギフテッド認定も含んだ高IQ者認定

さらにサイトをよく見ていくと、この団体の活動が「ギフテッド」にも及ぶ可能性も読み取れます。

すでにその変化に気付いたAI開発先進国とも言うべきアメリカや中国は、そうした新しい発想を求め、極めて少数存在する「特別な適性を持つ人材」、つまり、ギフテッドのような人材の発掘を国家戦略に据えて、囲い込みをおこなっています。

 

わが国はそもそもの「特別な適性を持つ人材」を見つける作業において出遅れています。とはいえ、どの国・地域においてもこれらの人材を見つける手段が確立されているわけではありません。

 

この「特別な適性を持つ人材」を見つける作業、そして、そのような人物が先進技術開発のために活躍し正当に評価される仕組みを作らなければ、わが国の未来はありません。

 

当機構では「特別な適性を持つ人材」を見つけるべく、高域IQ検査「CAMS」の開発を進めており、今秋の検査(指定会場での一斉受検)実施を予定しております。

この団体の言う「特別な適正を持つ人材」とは「ギフテッドのような人材」とさらっと書いてありますね・・・つまり、この団体の高IQ認定は、ギフテッド認定と読みかえられる可能性もあるということです。

要するにこの団体は、自分たちを日本における、「高IQ」「ギフテッド」の認定基準にしようと考えているようです。

 

 

一般財団法人高IQ者認定支援機構の突っ込みどころ

この団体の事業内容をざっくり説明すると、CAMSという知能テストで希望者のIQを測定し、その値(15標準偏差換算で147以上)に応じて高IQ者を認定する、そして高IQ者認定をうけた者は高IQ者団体である「HIQA-Society」へ入会でき、希望すれば企業からの支援が受けられる、といった内容だそうです。

しかし、最初に「IQリテラシー案件」と書いた通り、この団体の活動内容には少し見ただけでも突っ込みどころが満載です。ここからは、そのおかしな点について具体的に突っ込みを入れていきましょう。

知能テストと人間の知能に関する根本的に間違った記述

まず目についたのは、この団体のサイトに見受けられる、知能テストと人間の知能に関する根本的に誤った記述です。まあ色々と突っ込みどころはありますが、ここでは一番致命的だと思われるものを指摘しておきましょう。

財団のサイトの「IQについて」のページを見ると、最後の方に以下のような記述が見つかります。

CAMSでは、測定対象とするg-factor(一般知能)を「時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力」としています。

専門用語が使われているため、知能テストや知能についてなんの知識もない人にはピンとこないかもしれません。しかし、多少知能というものについて勉強した人間から見ると、この短い記述は実は、この団体に知能テストや人間のIQについてまともな専門知識を持った人間がいないということがハッキリわかる、かなり破壊力のあるトンデモな内容になっています。

一般性知能(g)というもの

具体的にどこが笑いどころかを知って頂くために、まず人間の一般性知能(g因子)について説明しておきたいと思います。この一般性知能(g)は1900年代初頭にスピアマン博士が提唱した、現在の人間知能科学の基礎、そしてIQテストの基礎になっている重要な概念です。スピアマン博士以降の人間の知能の研究は、この一般性知能(g)の研究として発展してきました。

スピアマン博士は学生の成績を対象とした研究の中で、一つの科目のテストで良い成績を取った生徒は、その他の科目のテストでも概ね良い成績をとっているということを見出しました。実際に、各科目の成績の間には正の相関関係が見出されます。

そこで、スピアマン博士は人間の知能は二つの因子で説明できるのではないかという仮説を提唱しました。その因子の一つは、人間の知的活動全てに共通して働く因子である「一般知能因子(General intelligence factor, g因子)」。一つの科目で高成績を残す生徒が他の科目でも概ね成績が良いのは、それらの科目全てに共通して働く知能成分である一般性知能(g)が高いためである、というのがスピアマン博士の仮説が意味するところです。

そして、スピアマン博士が考えた人間の知能のもう一つの因子は、各科目だけに関係する知能成分である「特殊知能因子(Specific intelligence factor, s因子)」です。これは、算数なら算数、英語なら英語というように、各科目の成績としか関連性を示さないもので、一般性知能因子で説明されない、つまり各科目と相関性が見出せないような高成績を特に説明する因子です。

この一般性知能と特殊性知能で人間の知能を説明する知能の2因子説を検証する方法として、スピアマン博士は複数の変数(例えば複数の科目の成績)に影響を与えている因子を導出するための統計解析法として因子分析を編み出しました。そして、実際に博士が複数の科目テストの成績を因子分析すると、2因子説に沿うように、複数の科目成績に共通の因子と、共通しないもう一つの因子が導出されることがわかりました。

スピアマン博士が編み出した因子分析は、今でも知能研究に用いられるほど強力な研究手法です。そして、スピアマン博士以降の多くの研究で、一見異なる知的能力を測っていると思われるテスト結果の間には(そのテストの種類によらず)常に正の相関関係が見出され、またその因子分析からはほとんどの場合「様々なテスト結果に共通の因子」が導出されることがわかってきました。

この因子分析から導出されてくる「様々なテスト結果に共通の因子」は、スピアマ博士が考えた「あらゆる人間の知的活動に共通の因子」である一般知能因子(g)と同じものであると考えられ、以後人間の知能の研究は、このg因子を対象として進められてきています。

ここまでの説明でなんとなく感じてもらえたと思いますが、このg因子というのははっきりした実体を持たない因子です。「人間のあらゆる知的活動に関与する」という性質以外には正体はわからない、研究の結果「おそらく存在している可能性が高い」と考えられている、総体的な、統合的なもの。それがg因子です。

限定的な能力をg因子とするトンデモさ

では、一般知能(g因子)のイメージがつかめたところで、改めて一般財団法人高IQ者認定支援機構のサイトにある説明を見てみましょう。

CAMSでは、測定対象とするg-factor(一般知能)を「時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力」としています。

g-factor(g因子)は「人間の知的活動全てに共通に関わる因子」であるはずです。そして、g因子は複数のテスト測定値の因子分析の結果導出されるものなので、最初から何かのテストで「gはこれ」と勝手に決められるようなものではありません。

それにも関わらず、「測定対象とするg-factor(一般知能)を『時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力』としています」とはなんでしょうか? 「時間的な圧力の少ない状況で、高い推論能力を発揮する力」が、人間の知的活動全てに共通に関わる因子と言っていることになりますが、もちろん意味不明です。

つまりこの記述は、g-factor(一般知能)というものを何か根本的に誤解していない限りできない、非科学的な記述と言えます。知能に関する研究はもちろん、解説記事であっても、一般知能(g)をこれほど誤解した記述と言うのは、めったにお目にかかれません。

要するに、この団体の人達は、人間の知能の本質である一般知能(g)、そしてそれを推定するための知能テスト、両方について正しく理解していないにも関わらず「高IQ者認定」を行おうとしているようです。知能と知能テストを理解していない人達の「高IQ認定」。これはまあ、シンプルに笑えますね。

しかし活動内容を見ていくと、この財団の活動の胡散臭い点は、次々と出てきます。次の記事ではさらに具体的に、この財団が活動に使うというCAMSという知能テストの問題点について、みていくことにしましょう。

*2019年9月6日追記*

先日確認したところ、この記事で突っ込みをいれた高IQ者認定支援機構のサイトのg-factorに関する記述が削除されていました。記述を消したところで、この財団の人達にまともな人間の知能に関する知識が身についたとは思えないのが残念です。しかし、実際この一般知能に関するとんでもない勘違い記述を見てみたかったという人もいるかもしれませんので、ここには修正前の財団サイトのスクリーンショットを引用しておきます。

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