努力する子の育て方

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理論から考える子供の好奇心を育む方法・後編

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前編の記事では、好奇心というものの基本的な性質について見ていきました。

 

この後編では、好奇心の性質から見て、どのような関わり方をすれば子供の好奇心を効果的に育むことができるか、という点を考えていきたいと思います。

好奇心だって育てられる

好奇心は生まれ持った性質であって、育てられないのではないかという議論があります。確かに、好奇心は人間が生来持った性質です。好奇心が向く範囲というのも、生まれつきの気質の影響をうけていると考えられます。

子供が興味を持つ対象には、男女差が見られることがよく知られています。男の子が車のおもちゃ、女の子は人形などを選ぶという傾向は、2歳くらいのまだ性差の認識のない時期から確認できます。また、1歳児においても、映像を見せると男の子は乗り物などを、女の子は人の顔などを好んで見るという傾向も確認されています。

こうした興味の対象の性差は、性ホルモンの影響を強く受けているという報告があります。つまり、興味を持つ対象、好奇心の向く対象には、間違いなく生まれつき決まっている部分がある、ということになります。

しかし・・・好奇心の性質、その生じるメカニズムを考えれば、好奇心を育むことは可能であると考えられます。おそらく、生まれつき決まっている好奇心の向く範囲を大きく変えたり、特定の対象に確実に好奇心を持たせるようなことはできないでしょう。しかし、好奇心の向く対象を少しずつ広げたり、好奇心がより刺激されやすいように子供を育てていくことは、十分に可能であると考えられます。

それでは、実際子供にどんな働きかけをしたら好奇心を育てることができるのか、具体的に考えていきましょう。

 

 

記憶と好奇心の相互強化関係を使うアプローチ

好奇心を生み出す源は、知識や経験といった、人間の「記憶」です。こう書くと、好奇心は新しい知識や経験への欲求なのだから、順番が逆ではないかと感じる人もいるかもしれません。しかし実際のところ、好奇心と記憶どちらが先かという問題は、そんなに単純ではありません。好奇心と記憶は相互に強め合う密接な関係にあるためです。

記憶を礎に好奇心が生まれる

好奇心が生まれるためには、記憶が必要です。特殊的好奇心は、自分が持っている情報と獲得した情報のズレなどの、不調和によって生じます。自分が持っている情報というのはすなわち記憶です。つまり、特殊的好奇心が生まれるためには、獲得した情報と自分の記憶の間の整合性を判断する照合プロセスが必要であり、何らかの記憶なくしては、特殊的好奇心は生まれてこない、ということになります。

さらに人間は、自分が全く何も知らない、自分に関係がない事柄よりも、少しだけでも知っている、ちょっとした関係がある事柄についてより積極的に情報収集を行うことが知られています。つまり、「情報と記憶の照合プロセス」は、拡散的好奇心が生まれる際にも重要であり、記憶の範囲を広げることは、拡散的好奇心が向く範囲を広げることにつながるものと考えられます。

このように、好奇心が生まれる過程では、常に記憶と入力情報の比較が行われています。そして、照合の対象となる記憶が多ければ多いほど、特殊的好奇心も拡散的好奇心も生まれてきやすくなると考えられます。つまり記憶は、好奇心を生み出す源泉であるということができます。

好奇心は記憶を強化する

逆に、好奇心が記憶を増強するという効果も知られています。学習対象に関する意外な情報を前もって与え、特殊的好奇心を喚起した状態で学習内容を提示した時の方が、単に学習内容を提示した場合に比べて、記憶の定着が良かったことを示す様々な教育心理学的実験が報告されています。

意外性のないストーリーよりも、予想を裏切られるストーリーの方が記憶に残りやすいというのも一般的な現象です。このような例からもわかるように、好奇心には記憶をより強くする効果があるのです。

つまり記憶と好奇心には、記憶が増えれば好奇心が刺激されやすくなり、好奇心が強まれば記憶が増えやすくなる、という相互に強め合う関係性があると言えます。

記憶を意識した子供の好奇心を育てるための働きかけ

従って、子供の好奇心を育むために有効なアプローチの一つは、子供に様々な知識や経験を与えて、たくさんの記憶を作ってあげることです。

記憶といっても、何もかもしっかり覚えていなければならないわけではありません。「あれはどこかで見たことある、なんだっけ?」で特殊的好奇心が喚起されたと言えますし、「最近よく耳にするからちょっと見てみよう」なら拡散的好奇心が喚起されたと言えます。ほんの少しでも関連性が見出せる記憶があれば、それが好奇心を生み出すのです。

とにかく色んな物事に触れさせて、色んな情報の記憶を作る機会を与えることが重要と考えられます。そして、そうした経験がなるべく記憶に残るように、好奇心が喚起される面白い経験をさせてあげるのがより効果的であると言えます。

「子供の好奇心を刺激するために、色んな場所に連れていこう」といったことが育児書などによく書いてありますが、上記のような理屈から考えて、かなり的を射ていると言えるでしょう。しかし、別に外出だけが方法ではありません。子供が楽しんで、内容を覚えているのであれば、別にテレビだってなんだって良いと思います。

親が外部記憶装置となって子供の好奇心を刺激する

子供の記憶力を頼りにするだけではなく、親が自分の記憶を使って、子供の記憶を補完し、好奇心を刺激していくことも可能です。これは、基本的には子供の好きなトピックについて親子で話をしている時に、自然と行っていることでもあります。

例えば何かの事柄について、親子で記憶が食い違う瞬間が生まれると、それは「どちらの記憶が正しいか」という特殊的好奇心の引き金になります。親が感じた疑問を子供と共有することでも、子供の特殊的好奇心を刺激することができます。また、親が知っているけれど子供が知らないことを紹介してあげるだけで、子供の好奇心は大いに刺激されるはずです。

このアプローチでは、子供が好奇心を向ける事柄について、親も知識があることが必要です。子供が興味を持ったことが自分に馴染みがない分野であったなら、自分も少し興味を持って知識を仕入れていく必要があります。

さらに、親が自分の知識を利用して子供の好奇心を刺激する際には、「不調和の大きさ」を意識する必要があります。前編で述べたように、過大な不調和は特殊的好奇心を生み出しません。解消の目途がつくような、適度な不調和を子供に与えていく必要があります。

好奇心から内発的動機付けへの移行を意識したアプローチ

前編で「好奇心→情報探索→好奇心充足の報酬」というループが内発的動機付け状態を作り出していくということをご紹介しました。子供の好奇心を育んでいく上で有効だと考えられるもう一つのアプローチが、この好奇心から内発的動機付け状態への移行部分を促進していくものです。

これは結局、「楽しいから知識を求める、考える。楽しいのでもっと考える」というループを作り出すということになります。人間は生まれつき好奇心の強い生き物ですが、その生来の性質の上にさらにこの内発的動機付けの状態を作り出すことで、子供の好奇心はより旺盛なものになっていくと考えられます。

子供の好奇心→情報探索→好奇心充足サイクルをサポートする

好奇心から内発的動機付け状態に移行していくためには、好奇心とそれによる情報探索行動に付随して快感や報酬をたくさん経験することが重要です。そこで、子供の好奇心に端を発した言動を見逃さず、親が意識的にサポートして、子供が「嬉しい」「楽しい」「面白い」といった報酬を得られるようにしていきます。

子供が投げかけてくる疑問や質問は、すべて好奇心の発露です。まず質問や疑問を思いついた点を認めて褒めて、自発的な思考プロセスを強化していきましょう。さらに、子供の疑問や質問ははぐらかしたりせず、真剣につき合って、なるべく好奇心を満足させる答えがみつかるように情報探索部分をサポートします。

親が答えを与えられるならば、それで子供の好奇心を満足させてあげましょう。もしすぐに答えがわからない場合は、どうしたら見つかるか考えたり、一緒に探したりしましょう。もしも答えがみつからなかったとしても、親が自分の疑問に共感してくれること自体が、子供にとっては喜びであり、報酬として働きます。子供の質問は時に非常に難解で、答えが無い場合もしばしばですが、とにかく親が子供の疑問へ真剣に向き合う態度を示すことが重要です。

そういう意味では、子供が「なんで?どうして?」と質問を繰り返す、いわゆる「なんでなんで期」は、いわばボーナスステージです。もちろん全ての質問に答えられる必要はありませんが、なるべくたくさんの子供の疑問に向き合って、質問や疑問を通じて子供が楽しい、嬉しいという気持ちになるように、接していきましょう。

子供に自由な時間を与えることが大切

好奇心にもとづく情報探索行動や、そこから内発的動機付け状態への移行は、どれも自律的なプロセスです。親はそのプロセスをサポートしたり、燃料を投下したりすることはできますが、そのプロセスの開始を外から刺激することはできません。

いくら記憶が好奇心に必要だからと言って、親が一方的に子供に知識を与え続けるようなことをしていては、子供が自律的な情報探索を開始したり、思考活動を進める時間が奪われてしまいます。自律的な活動には、いつでも自由な時間が必要です。

子供の好奇心を育む上で、親が介入していくことは可能です。しかし、親の働きかけはあくまでサポートです。好奇心を生み出すエンジンはあくまで子供の中にあり、親ができるのは、そこに燃料や燃焼補助剤を足したりする程度。子供が好奇心を生み出すには子供のタイミングがあり、自由な時間が必要であるということを、意識しながら関わっていくことが必要です。