努力する子には、高い自立心が求められます。親に依存せず、自分で考えて、自分で行動する。そのための十分な自立心や自尊感情、自己有能感が養われなければ、一人で努力していくことはできません。
子供の自立心を支えていくために、親に求められるのが上手な子離れ、子育ての幕引きです。それまで順調だった子育てが、最後の幕の引き方で大きく狂ってしまうこともあります。そして、この子離れというのは、親にとっては中々一筋縄ではいかない難しい課題です。
子供にとっての親離れの重要性
親離れは、子育てをする全ての動物に見られる現象です。子供が親の養育環境から離れ、成熟した個体として独り立ちをしていく。それは「自立した次世代」を育てるという、子育ての基本的ゴールが形になって成就する過程といえます。
人間の子供は全てを親に依存して生きる乳児の状態から、親の庇護無しで生きていくための能力を身に着けながら、少しずつ成長していきます。そして、成長につれて少しずつ親との距離をとり、親離れを進めていきます。
子供の親離れが顕著に進むのは、一般的に思春期の頃です。身体的にも精神的にも成熟すると、子供は親からの自立を主張するかのように、必要以上に反抗的な態度をとったりします。それまでは素直に親の意見を聞いていた子達も、親の意見に耳を貸さなくなっていきます。このいわゆる第二次反抗期は、子供が明確に親との距離を取り始める、親離れ開始のわかりやすいシグナルです。
こうした親離れの過程は、子供が自らの成長を確認し、自立に向けた自信を深めていくための大切なプロセスです。親に反発し、軽んじるような態度も、親からの独立という発達の最終課題へ向けた準備であると考えられます。
親から距離を取ることに成功することで、子供は自分に自立のための能力があるという自信を深めていきます。逆にいうと、親から距離をとれない状況では、子供は自分の能力を確信することができません。つまり親離れは、子供が自らの自立能力に自信を持つための、実践的なプロセスです。
「子の親離れ」とは別問題の「親の子離れ」
子供の親離れが大切であれば、子供が上手く親離れできるように、しっかり教育しようと考える人もいるかもしれません。それももちろん大切ですが、もう一つ非常に大切な問題があります。それは、親にとっての「子離れ」という課題です。
子の親離れと親の子離れは、一見コインの表裏のようで、そうではありません。子の親離れが始まれば自動的に親の子離れが始まるということはなく、親の子離れは親が能動的に起こす必要のある、子の親離れとは独立したプロセスです。
しかし、子の親離れと親の子離れは、強い依存関係にもあります。子供の親離れが上手くいかなければ親も子離れできないのは当然ですが、親の子離れが上手くいかない場合も、子供の親離れは阻害されてしまいます。そして、この親の子離れの失敗による悪影響は、子供の人生全般にも大きな悪影響を与える結果を生むことがあります。
この悪影響が端的に表れているのが、毒親問題です。毒親の方々の多くは子供に対して過干渉であり、いつまでも子離れしようとしないという特徴があります。毒親育ちの子供たちは、親の過干渉にさらされ続ける結果、自分の能力に自信を持つ機会が持てません。そして、自分の親から「自立できない子供」という扱いを続けられる結果、自立心や自尊心が著しく低下してしまいます。
毒親育ちの子供が親の影響を振り切って自立を果たした場合でも、そのためにとんでもないエネルギーを消耗させられてしまいます。そして、親に過干渉を受けた記憶や、親と折り合いがつかなかった記憶は、長らく子供の心に暗い影を落とすのです。
このように、子供が親離れを進め、その過程で自らの能力に自信を深めていくためには、親がどう子離れをするかという問題も、極めて重要なのです。
親の子離れが難しい理由
毒親についてはまた別の記事で書く機会があるかもしれませんが、大抵の毒親は、子供を深く愛していますし、子供に悪影響を与えたいとも思っていません。それなのに、毒親になってしまう。その原因の一つには、親にとって、子離れというタスクが存外難しいという問題があります。
親にとって子離れが難しい理由の一つに、子離れのタイミングを決めるのが、親ではなく子供であるという点が挙げられます。子供が十分に成長する前に親が子離れをすると、子供は養育不足になってしまいます。逆に、子供が成長して親から距離を取ろうとしているのに親が子離れを始めないと、過干渉な毒親化が進んでしまいます。つまり、適切な子離れのタイミングを、親は自分で決められないのです。自分のタイミングはなく、相手に合わせて物事を進める必要があるというのは、何であっても難しいことです。
では、どうすれば子離れのタイミングを逃さずに、毒親化せずに済むのか。一つはもちろん、子供をよく見て、気持ちや考え方を把握し、自分が常に適切な距離感を心がけることです。養育不足にも過干渉にもならない、子供との適切な距離感をとるためには、子供を子供扱いせずに、別人格として尊重することが重要になります。
もう一つ、とても大切なことは、来るべき子離れのために、親が前々から準備をしておくことです。子離れは、親のタイミングではやってきません。親から見ればまだまだ未熟だと感じる部分が子供に残っていても、子供の親離れは否応なしに進んでしまいます。
子供が親から距離を取り始める、それはある意味子育てのタイムリミットです。親離れが進めば、親が子供に影響を及ぼせる余地は急速に小さくなっていきます。育児の幕が下り始めた時、親としてはまだまだやり残したと感じることや、子供に対して不安に感じる部分が沢山残っているかもしれません。しかし、そこで無理に子供との距離を縮めて以前のように子供に影響を与えようとすると、それは効果的でないどころか、悪影響になる可能性が高くなります。
つまり子育ては、子の親離れというタイムリミットを意識しながら進める必要があります。そして、子の親離れが始まった時に、焦らずに自分も子離れを始められるように、余裕をもって準備しておく必要があります。そうすればきっと、自分に反抗する子供に対して、その成長を認め、頼もしさを感じる余地も生まれます。
日々育児に追われていると、この子育てがいつか終わるなんて中々実感がわきませんが・・・親として子供の自立を支え、一人で努力していく自信を子供に与えてあげられるように、子離れの進め方は、しっかり考えておきましょう。