「ぼくもあれがしたい!」
テレビに映ったスキューバダイビングの映像を指して、うちの長男ケイがそう言ったのは、彼が5歳、年長だった時のこと。
2歳の頃からもう十分過ぎるほどに活発だったケイ。入園以降さらに活発度を増していくその様子に、「なんとかこの子の体力を上手く奪わないと」と日々危機感を募らせていた体力下り坂の私達にとって、その一言はまるで天啓のごとく響きました。
今となっては、ケイが習い事を嫌がる心配なんて無用だったとわかるのだけど・・・当時はまだ、ケイの「なんでもやりたがる」の程度が私達にもハッキリ理解できていなかった頃。
何か運動をさせるとして、どんな習い事なら飽きずに続けられそうかと考えていた時に、「ダイビングがしたい」という目標があればスイミングは頑張れるんじゃないかと大いに期待が膨らんだんですよね。
ということで「ダイビングがしたいならまず泳げないとね?」とケイに伝えると、「プールに行きたい!」という返事。そこで早速ケイを近所のスイミングスクールに連れていく算段を、しめしめとばかりに整えたのでした。
まあ、自分がスイミングを始めた理由を今も覚えているかは定かではありませんが、結果として幼稚園の時から今に至るまで、ケイが毎週のプール通いを渋る様子はこれまで微塵もなかったのですが・・・。
今年になって、思いがけずもケイのスイミングスクールを新しい所に変えることになりました。
スイミングスクールを変えた理由
別に、それまで通っていたスイミングに不満があったわけではないのです。大きな理由は、スイミングスクール側が施設改装のために数か月のスクール業務休止を決めたため。
コロナ禍でただでさえ外に出て運動がしづらくなったここ2年ほどの間、ケイが思いっきり動けてストレス発散できる毎週のプールは大変有り難い存在だったので・・・それが数か月も無くなってしまうのはかなり不安でありました。
ケイも「水泳がずっと休みになるのは寂しい」と言う。家から一番近くて月謝も手頃、そして都合のいい日時にクラスがある良い感じのスイミングスクールだったけれど・・・それならばと、思いきって別のスイミングスクールへの移籍を考えたのでした。
幸いにして、我が家からそれほど遠くない距離にもう一つスイミングスクールがあったので連絡してみると、今ちょうど一人分だけ同じ日時のクラスに空きが出ているという話。
それは渡りに船ということで、早速入会を前提に体験クラスの申し込みに走ったのでした。
新しいスイミングスクールで驚いたこと
ケイが幼稚園から通っていたスイミングと新たに通うことになったスイミングは、どちらも泳ぎのレベルでクラス分けをしているグループ指導のスイミングスクール。
コーチ一人当たりが見ている子供の数も大して変わらず、基本は週1回1時間、進級テストの頻度も2か月に1回と全く一緒。ただ、大きく違うと思ったのがその指導システムです。
新しいスイミングスクールで驚いたのは、グループ指導の中でも一人一人に個別化した指導ができるようにシステムが工夫されている点でした。
まずこのスイミングスクールでは子供一人一人に電子カルテのようなものを作っており、クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライの各泳法を泳ぐ上で大切な動きの「できる/できない」をチェックポイントとして記録していて、さらにWeb上で親にも公開しています。
そして、練習ではコーチが一人一人の子供のチェックポイント通過状況を把握しながら、時には同じクラス内でサブグループを分けて練習内容を変えたりしつつ、結構きめ細やかな達成度別の指導が行われていました。
よく見ると子供達はクラスの中でチェックポイントの「できる」が多い子から少ない子という順番に並んで泳いでいて、沢山の子供がいる中で各人の泳ぎのどこに注目して指導すればいいかがコーチにわかりやすい仕組みにもなっているようでした。
ケイがこれまで通っていた旧スイミングスクールでは、電子カルテが無かったのはもちろんですけど、クラス全員が毎回全く同じ内容のトレーニングをこなす指導法。
私が子供の頃通っていた所も同じだったので、スイミングってそういうもんだと何の違和感もなかったのですけど、新しいスクールのやり方を見てみたら、絶対こっちの方が効率的だと目から鱗でありました。
思いがけないスピードで4泳法をマスター
しかし一番驚いたのは、新しいスイミングスクールに通い始めてたった3か月で、ケイが4泳法を泳げるようになったこと。
ケイが昔から通っていたスクールは、ほとんどの子は進級に半年程度はかかり、時には1年以上進級できない場合もあるといった具合の、いわゆる「中々進級させない」スイミングスクールでした。
辞める前、ケイは4年生でクロールと背泳ぎを完成するクラスにいましたが、同じクラスの子を見ても同学年か年上の子が多く、特に遅れているという感じはなかったんですよね。
またネットで調べても、スイミングスクールには大まかに「どんどん進級させるスクール」と「中々進級させないスクール」という風に水泳指導のシステムや哲学に違いがあり、後者は各泳法をきれいに泳げるレベルにしてから次に行くというスタイルだという話に、そんなもんかと納得していました。
ところが、新しいスクールでケイはクロールと背泳ぎはもう十分に泳げると判断されて、平泳ぎクラスからのスタートに。
そして1か月後にあった次のテストで平泳ぎに合格してバタフライクラスに入ると、さらに2か月後のテストでそのバタフライのテストにも合格して、移籍からたったの3か月で個人メドレーのクラスへ。
メドレークラスになるとテストは各泳法で基準タイムを切れるかどうかのタイムテストになりますが、ケイはそれも毎回余裕を持って合格を続けており、スイミングスクール移籍以来、まだ一度もテストで不合格になったことが無いという事態となりました。
まあ今のところケイがテストに合格し続けているのは移籍のタイミングによる偶然もあって、別にこの新スクールのテスト合格基準が異常に甘々というわけではない様子。
テストの日の周りの人達の会話を聞いていると、「今回はダメだった」「じゃあ次に向けて練習だな」みたいな会話がそこかしこで聞こえてくるのも旧スクールと同じで、不合格になる子は普通に沢山いるようです。
ただ、旧スクールはクラスの誰もテストに合格しないみたいなことが普通にあったけど、新スクールではそういうことはほとんどないみたいでした。
それにしても、旧スクールでは半年~1年に1回しか進級テストに合格しないとなれば、4年生で背泳ぎ・クロールクラスにいるケイが小学生の内に4泳法をマスターできるかは微妙だと思っていたので、新スクールに移って僅か3か月でバタフライまで終わるというのは、本当に思ってもみなかったことでありました。
スイミングスクールなんてどこも同じなんて決して思ってはいなかったけれど、まさかこれほどまでに違うとは。
進級ペースの遅いスクール vs 速いスクール
今回、進級ペースの遅いスイミングスクールと速いスクール両方に子供を通わせた経験から感じたのは、どちらか選べる状況ならば、基本的には進級ペースの速いスクールを選んだ方が良い可能性が高いだろうということ。
もちろん、テストの合格基準が厳しくて中々進級しないスイミングスクールの「きれいに泳げるようにしてから次の泳法へ進む」という考え方は一理あると思うんですけど、それは指導システムの非効率性、すなわち「教えるのが下手」という弱みへの言い訳にも使えてしまいます。
効率的な良い指導システムを持つスイミングスクールが、「きれいに泳げるようにしてから次の泳法へ進む」という理念の下に、あえて進級ペースを遅く保つということは無理なく可能ですし、もしかしたらあるかもしれません。
しかし、逆に非効率的な指導システムしかないスイミングスクールが速い進級ペースを生み出すのはとても難しいはずです。特に初級者レベルの話だったら、泳ぎの上手い下手は傍から見ていて一目瞭然。上手い人の泳ぎ方はやはりきれいで無駄がありません。
もしも教えるが下手なスイミングスクールが速い進級ペースを実現しようと思ったら、テストの合格基準を非常に甘くして進級ペースを上げていくしかないわけですが、そんなことをすれば泳いでいる子供達のフォームは上のクラスでもガタガタで、見学者が「何これ大丈夫?」と簡単に思う、誤魔化せない状況が生まれてしまいます。
従って、速い進級ペースを生みだせるスイミングスクールというのは、基本的にそれだけ効果的な指導システム、教えるのが上手いコーチがいる所である可能性が高いと考えられます。
沢山泳ぐ中で洗練されていく仕組み
進級が速いスクールではそれだけフォームが完成されていない状態で上に上がるという心配があり、ケイを見ていてもそれは事実だと思いました。
進級ペースが遅かった旧スクールでずっと泳いでいたクロールと背泳ぎは、新スクールで合格した平泳ぎとバタフライに比べて明らかに完成度が違うし、ケイのクロールは新スクールで同じクラスの子のクロールに比べても段違いにきれいで速いです。
でも新スクールで習った平泳ぎとバタフライも、メドレークラスでタイム合格を目指して沢山泳いでいく中でどんどん上達してきているのが見ていてわかります。
平泳ぎなんて、新スクールに通い始めて1か月でテストに合格した時には、キックしても期待通りに進まない「ギリギリ25m泳げる」といった感じのフォームでしたけど・・・その後さらに数か月経った今では、水を蹴ったらスーッと伸びる、上から見ていても思わず気持ちよく感じるようなきれいなフォームになってきました。
バタフライはやはり難しくて、ドルフィンキックが進まない、やっぱり「ギリギリ25m泳げます」みたいな感じですけど、このままタイムを上げるためにフォームを直していけば、そのうち平泳ぎ同様にきれいなフォームになると思うんですよね。
旧スクールの頃、テストで背泳ぎに問題があって合格できず「次は背泳ぎ頑張ろう」となったその翌週、クラス全体に合わせてクロールの練習ばかりやっているケイを見た時は流石に疑問が頭をよぎりましたが、全員が同じ練習をするシステムでは個々人の課題を効果的に解決することは当然難しい。
やっぱり、何につけても人は一人一人個性があって、水泳の練習でも課題は人それぞれ。だとしたら、本当に最低限の基本を身につけた後はメドレーの反復練習の中で個々人の課題を解決していくという練習スタイル、そしてそれを可能にする子供達の多様性に目を配る余裕とスキルの有無は、練習の効果に大きく違いを生み出すだろうと思いました。
大いに後悔したこと
今回ケイのスイミングスクールを変えて大きく後悔したこと。それは、「何故もっと早く変えなかったか?」という点に尽きます。
これまでケイが通ってきた旧スクールも、クラスの定員はいつも一杯でキャンセル待ちが沢山出ている地域で人気のスイミング。辞めて新しいところを知るまでは、「スイミングってこういうもの」としか思っておらず、特に大きな不満も感じていませんでした。
でも新スクールのより効果的なやり方を知ってしまった今は、もう旧スクールへは戻れません。お値段的には新スクールの方がお高いのは確かだけれど・・・それでもやっぱり、戻れない。
1年以上テストに合格できずに親子で悔しい思いをし続けたのは、なんだったのかなあ・・・負けず嫌いのケイはテストで不合格だとよく泣いていましたけど・・・最初から新スクールに通っていたら、テスト不合格時の涙はもっとちゃんとコーチと共有されて、より成長につながる、より意味のある涙になっていたのかも。
そう考えると、旧スクールで今までかなり時間を無駄にしたなあという気持ちが強いんですよね。本当に、もっと早くスイミングを切り替えておけばよかった!
まあ実際のところ、こうして気づいた新スクールの指導法の良さというのは、旧スクールに長く通った後だからこそわかるという部分もあります。
新スクールも自分達の指導法や電子カルテシステムをウリにした宣伝をしているわけでは特になかったりして、体験入会だけで新旧スクールを比べたとしても、スイミングスクールの指導システムに関する知識が無かった私達では、新スクールの良さには気づけなかったかもしれません。
だから、たまたま今回新スクールに出会えたことが幸運だったのであって、過去を嘆く必要は無いのだろうとは思っても・・・思っても、それでもやっぱりもう少し早く知りたかった!
下の子は最初から新スクール
まあ、過ぎたことは仕方がありません。新スクールに変わって、ケイの水泳が旧スクールでは考えられなかったスピードで上達しているだから、それで納得しましょう。
それに、旧スクールでずっと泳いでいたクロールと背泳ぎも、完全な無駄だったわけでもありません。ケイのクロールが新スクールの他の子よりもずっと速いのは、旧スクールのお陰な部分もあるのです。きっと。
そんな風に自分を納得させつつ、最近「自分もプールに行きたい!」と言い出した次男のちーちゃんをケイが通う新スクールの体験に連れていきました。もう同じ失敗はしませんよ、という気持ちを胸に秘めながら。
スイミングスクールは随分違う。その経験から学んだ知識を生かす機会は、私達の場合もうこの次男のスイミング選びが恐らく最後ですが・・・これからお子さんのスイミングスクールを検討するという方は、テスト合格に要する平均期間と昇級に関するスクールの考え方、そしてグループ指導の中でどうやって個々の子供達へ目を配り、個別に指導する工夫をしているか、という部分に注目しながら情報収集されることをお勧めします。