努力する子の育て方

努力に勝る才能無し!努力の才能を育てる教育法、ボルダリングによる育児ハック実践、我が家の超個性的なギフテッド児の生態など

IQと学力の関係性と、アンダーアチーバーの議論の危うさ

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知的能力に問題が無いにも関わらず学校での学業成績が悪い子供のことを「アンダーアチーバー」と呼びます。日本語であれば「学業不振児」。

子供の学力は教育心理学の中心的な関心事の一つということで、このアンダーアチーバー(学業不振児)研究の歴史は非常に長く、60年以上前(!)の論文を読むと、なんと日本でも明治時代の末期には既に研究が始まっていたことが書かれています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/5/4/5_40/_pdf


このアンダーアチーバーという言葉、英語では様々な文脈で使われますが、最近日本では特にギフテッドとの絡みでよく聞くようになってきました。Googleで「アンダーアチーバー」と検索してみると、引っかかるサイトの多くがギフテッド関係です。

ギフテッドで、知的能力、知能指数(IQ)が高いにも関わらず、学校の成績はそれほど良くない。そんなケースがギフテッドの低達成、アンダーアチーブメントなんて呼ばれています。ギフテッドという概念と共に、アンダーアチーバー、アンダーアチーブメントという言葉も一緒に広まってきているようです。


しかし、ギフテッドの低達成に絡んで最近日本で聞かれるアンダーアチーブメントの議論、なんだか結構危ういものが増えている気がしています。例えば、「IQは高いのに学校の成績はぱっとしない」なんて、「知能検査の偏差値の方が学業成績の偏差値より高い」程度で「アンダーアチーバー」だなんて簡単に言ってしまうケースが、結構たくさん見られるんですよね。

でも「IQは高いのに学校の成績はぱっとしない」、これって本当に問題と言えるような特別な話なのでしょうか?もしそうであれば、IQと学業成績の間には、かなり強い相関関係があることになります。

IQと学業成績には相関があるというのは、よく聞く話ではありますけど・・・その相関関係、実際にはどれくらい強いものなのでしょうか?今回はIQと学業成績の相関研究やシミュレーションの結果を見ながら、こうしたアンダーアチーブメントの議論の妥当性について見ていくことにしましょう。

注)この記事での議論は、全て妥当性と信頼性の検証が行われている標準知能検査で得られるIQを対象としています。標準知能検査とネットのIQテスト風パズルの違いについては以下の記事などをどうぞ。 

 

世界中で行われてきたIQと学業成績の相関研究

チャールズ・スピアマン博士は、学生の学業成績に関する研究の中から一般知能(g)の概念を見出しました(一般知能gに関する詳細は以下の記事をどうぞ)。 


そんな歴史的経緯にも示される通り、知能(IQ)の高さと学業成績の間の関係性というものには、多くの研究者の視線が注がれてきました。115年前にビネー博士とシモン博士が知能検査を作って以来、世界中でIQと学業成績の間の関係性の研究が進められ、実に膨大な量の研究データが蓄積されてきています。

それでは、そうした膨大な研究から得られてきた、IQと学業成績の相関関係の強さはどれほどでしょうか?実際に見てみましょう。

IQと学業成績のメタ解析の結果

IQと学業成績の相関研究は本当に膨大ですが、その膨大な研究成果を統合して解析したメタ解析研究の結果も複数あります。

例えばBoulanger (1981)のメタ解析では、1963年から1978年の間に行われた34件の学業成績とIQの相関研究を調査し、相関係数の(荷重)平均値としてr = 0.48という数字を報告しています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/tea.3660180203


FlemingとMalone (1983)のメタ解析では主に自然科学分野の成績とIQの間の相関関係に着目し、1960年から1981年までの研究結果から、母相関係数 ρ = 0.43という推定値を得ています。またSteinkampとMaehr (1983) のメタ解析でも、やはり数理分野の学業成績とIQの間の相関関係に注目した解析から、ρ = 0.34とういう相関係数を報告しています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/tea.3660200510

https://www.jstor.org/stable/1170369?seq=1


2015年と比較的新しいRoth et al. の研究では、こうしたこれまでの多くの研究データを基に、知能と学業成績の様々な側面に着目した詳細なメタ解析を行っています。例えば同じ知能検査でも言語的検査項目(Verbal)では ρ = 0.53、非言語検査項目(Non-verbal)では ρ = 0.44と言語的検査項目の方が学業成績との相関が強い、IQと学業成績の相関は小学校で ρ = 0.45、中学校と高校ではそれぞれ ρ = 0.58など、非常に細かい相関関係が報告されています。

https://www.gwern.net/docs/iq/2015-roth.pdf

 

 

 

IQと学業成績の間の相関係数は大体 0.4~0.6 程度

これまでの認知能力やIQと学業成績との相関研究では、注目する科目の違い、学力テストの点数に注目するか教師のつける成績に注目するかといった違いで少しずつ異なる相関係数が報告されてきています。しかし、その相関係数を俯瞰すると、IQと学業成績の間の相関は、その大部分が相関係数0.4~0.6の範囲に落ちていることがわかります。

以前の記事では、IQとチェス能力や楽器演奏、研究者としての生産性の間の相関が、0.2~0.3と非常に期待外れであることを紹介しました。


こうした低い相関係数を見た後では、相関係数0.6という数字は結構高いように感じますね。でも、相関係数0.6って実際どんなものなんでしょう?

シミュレーションでIQと学業成績の間の関係性を可視化する

相関係数0.6になるデータの分布を実際に見てみるために、ここでは簡単なプログラムを組んで、シミュレーションをしてみます。

IQも学業成績もおよそ正規分布ということで、ここではシミュレーションとして、相関関係にあり、それぞれ標準正規分布(平均値0、標準偏差1)に従う2つの変数を持つデータをランダムに1000個生成します。

簡単に言うと、知能偏差値(IQ)と学業偏差値の値を持つ人のデータを、①IQと学業偏差値の間に一定の相関関係がある、②IQと学業偏差値はそれぞれ正規分布に従う、という2つの仮定の下で、ランダムに1000人分作り出したということです。そして、相関係数を変えながら、データの分布の様子を実際に見ていきます。

下の図1は、IQと学業成績の間の相関係数を r= 0.99 とした時の1000人分のデータ分布です。r = 1が完全な正の相関関係(正比例関係)を意味するので、相関係数0.99はそれに近い、非常に強い相関関係を仮定しています。その通り、1000個のデータの分布は青色で引いたy=xの直線の周りにほとんどばらつかずに分布しています。

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図1.IQと学業成績のデータシミュレーション(相関係数 r = 0.99を仮定)


これくらいばらつきがなかったとしたら、IQの高さで学業成績の高さはかなりの精度で予測することができ、IQの高さと学業成績とのかい離は、予測を裏切る「普通ではない結果」と言っても全然問題なさそうです。

では、IQと学業成績の間の相関係数を r= 0.6とした時のデータはどんな分布になるでしょうか?そのシミュレーションの結果の一例を示したのが下の図2になります。

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図2.IQと学業成績のデータシミュレーション(相関係数 r = 0.6を仮定)

右肩上がりの傾向は一応見て取れますけど・・・y=xの直線からはかなりばらついた分布になっていることがわかります。IQが平均値(0)から2標準偏差以上離れている(+2以上)にも関わらず、学業成績は平均値 から1標準偏差以内というデータポイント(y=xの直線から右下方向にばらついたもの、アンダーアチーバー)、逆にIQは平均値から1標準偏差以内でも、学業成績は2標準偏差以上というデータポイント(y=xの直線から左上方向にばらついたもの、オーバーアチーバー)も結構見られることがわかります。

では、r = 0.5、r = 0.4となるとどうでしょうか?これを示したのがそれぞれ下の図3、図4になります。

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図3.IQと学業成績のデータシミュレーション(相関係数 r = 0.5 を仮定)

 

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図4.IQと学業成績のデータシミュレーション(相関係数 r = 0.4を仮定)

相関係数が下がるにつれて、y=xの直線からのデータのばらつきはどんどん大きくなっていきます。r = 0.4ともなると、もう右肩上がりの傾向も見た目ではかなり怪しい感じで、同じIQ値を持ちながら学業成績が-2標準偏差から+2標準偏差まで様々にばらつくデータポイントが普通に存在していることがよくわかります。

実際のIQと学業成績の相関を見るとアンダーアチーバーは別に珍しくない

図2の相関係数 r = 0.6の場合でも、IQ値が平均付近のデータを見ると、学業成績に関しては-2標準偏差から+2標準偏差までばらついているものが普通に出てきます。また学業成績が平均付近のデータでも、IQ値を見れば-2標準偏差から+2標準偏差までばらついているものが珍しくないことがわかります。

つまり、IQと学業成績の相関係数が0.4~0.6程度であるならば、上の図2~4で実際に見られるようにy=xの直線から右下方向にばらつく、「IQは高いのに学校の成績は平均程度」や「IQは高いのに学校の成績はそこまで高くない」というレベルの「アンダーアチーバー」、そしてその逆の「オーバーアチーバー」は、普通に見られるものだということになります。

アンダーアチーバーの議論はIQと学力の相関を考えながら慎重に

最近のアンダーアチーバーに関する議論を見ると、「IQから期待されるレベルに学力が届かないのはおかしい」といった論調もたまにみかけてゾッとします。もし我が子のIQが高くて、どこかで「IQと学力の間には相関が有る」という記述を見たら、我が子が学業成績優秀になるのも当然かのように感じてしまう人もいるのかもしれませんが・・・。

しかし、ここで実際に見てきたように、IQと学業成績の相関関係はIQが高ければ学業成績も高くなるのが期待できるというほど強くないのが実情です。もしもIQの高さだけでギフテッドを定義したならば、IQと学業成績のこうした強くない相関関係は、そのままギフテッドの低達成の有力な原因と考えて良いことにもなるでしょう。

もちろん、環境や先生との相性が合わず、持ち前の高い能力を学校で伸ばしていけないギフテッドは間違いなくいるのでしょうし、それはとても大きな問題です。しかし、IQと学力の関係性の実情を前提とせず、IQというものの印象だけで「IQが高いはずなのに、うちの子は学校の成績が良くない」なんてアンダーアチーバーの議論をするのは、子供の本質を見誤る可能性を高める、中々危険な行為と言えるのではないでしょうか。

これまでの記事で見てきている通り、IQという指標からわかることは、その印象に比べて非常に少ないものです。IQという指標に惑わされずに、子供の本質をみつめて子育てをしていきましょう。