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「素顔のギフテッド」感想・NHKのIQリテラシーが向上しない問題

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NHKはEテレで「素顔のギフテッド」と題したギフテッド特集が放送されました。昨年8月末に放送されたクローズアップ現代+のギフテッド特集の続編的な位置づけで制作されたということで、NHKギフテッド特集の第二弾ですね。

3月12日に放送されたばかりですが、15日(日)15時15分から再放送があるそうなので、興味のある方はぜひご覧ください。

昨年8月のギフテッド特集は本放送を見逃して再放送で視聴したのですが、今回は見逃さずに済みました。女優ののんさんを起用したことでも話題になっていましたし、その点で様々な視聴者を広く獲得することに成功したのではないでしょうか。

で、早速観てみた感想ですが、今回の番組は・・・アートでしたね。番組の中で「ギフテッドとは何か」という説明をほとんどしないまま、出演者をギフテッドと断定しつつ番組が進んでいたので、ギフテッドとは何かを知りたくて視聴した方の中には、消化不良な内容と感じられた人も多かったのではないかと推測します。

まだ日本ではギフテッドという概念の存在が広く認識されていないということを考えれば、ギフテッドについて十分に説明せずに、ただその存在を視聴者に無言で押し付けるようなやり方はどうなんだろう、ギフテッドのことを正しく理解してもらう上では効果的な方法と言えるのかな?と少々疑問に感じました。

しかし、鑑賞者の感性に訴えて、ものを考えさせるのがアートです。この番組を観た人の多くが「結局のところギフテッドとは何?」と疑問を持つ、そうであれば、それはこの番組に人にものを考えさせるアートとしての力が備わっている、そう解釈することもできるのではないか・・・。視聴後はそんなことを考えていました。

全体的にふんわりとした内容で、ナビゲーターののんさんの雰囲気と非常によくマッチしていたのも、印象的でした。

 

 

ネットのIQテスト風パズル再び。向上しないNHKのIQリテラシーにガッカリ

前回のクローズアップ現代+ギフテッド特集では、ネットのIQテスト風パズル、それも作者が知能検査ではないとわざわざ断っているような代物のスコアを、あたかも正式な知能検査のものかのように紹介するというとんでもない愚行をおかしたNHKでした。 


今回はどうかと思って観ていると、なんと前回と全く同じことをやらかしていました。壁を掃除して描いたパンダの絵と共に紹介されていた、大西拓磨さんの"IQ"として、SAM LIGHTというハイレンジIQテストの173というスコアを紹介していたのです。

ハイレンジIQテストが知能検査としては心理学的根拠の無い、ネットのIQテスト風パズルであることは以前の記事でご紹介した通りです。


今回名前が出てきたSAM LIGHTもやはりハイレンジIQテストの一種です。標準化データに基づき平均値100、標準偏差15のスケールで算出されるウェクスラー式の偏差型IQとは全く異なり、SAM LIGHTは標準化もされておらず、スコアは平均値150で、標準偏差も15になっていません。また、信頼性、妥当性の確認もされている形跡がなく、科学誌に掲載されたり第三者によって検証された形跡も全く見当たりません。要するに、ネット上でみんながいつでも楽しめる、IQテスト風パズルです。

(2020年3月18日追記・このハイレンジIQテストについては読者の方からのコメントに回答する形でさらに詳しい解説を行いましたので、ご興味のある方はコメント欄をご覧ください)

大西さん本人のtwitterでは、大西さんはきちんと標準化されているWAIS-IIIでのIQ145というスコアを「一番正しいスコア」としてNHKに申告しているにも関わらず、NHK側であえてハイレンジIQテストのスコアを選んで放送したという内容が紹介されていました。

正直、なんで番組側がそんなチョイスをするのか理解に苦しみますけど・・・数字が少しでも大きい方が良いと考えるのでしょうか?でも見栄えを気にしてパズルのスコアをIQとして紹介するなんて、番組全体の信頼性を落とすだけで本末転倒もいいところではないかと。なんというか、NHKのIQに関する理解に前回から向上が見られなかったのは、非常に残念でありました。

番組では、大西さん以外の人の"IQ"については、詳しい情報を何も出していなかったんですけど、これに関してはちゃんとした標準化知能検査のスコアを紹介していることを祈るのみです。ただ、この番組は既にネットのIQテストと標準化知能テストのスコアの混同してしまっているので、手放しで信用はできませんね。

今回の放送でも、前回よりも明言してはいませんでしたが、番組制作側の「高IQだからギフテッド」という考え方が番組の随所から感じられました。そろそろその時代遅れすぎるギフテッド観の脱却を目指して欲しいと思いますが、IQでギフテッドを説明しようとするならば、まず番組制作側がきちんとIQというものを理解するべきだと思います。

せめて、真っ当な知能テストとパズルの違い、そして科学的正当性のない"IQ"とギフテッドを結びつけることの、ギフテッドという概念普及にもたらす悪影響についてはきちんと理解した上で番組を作って欲しいと切に願います。たぶんそんなに難しい話ではないと思うので、もしも次回があるのなら、3度目の正直に期待です。

国内取材だけで番組を製作している限界を感じる

今回の特集を見て強く感じたのは、そもそもギフテッドという概念が欧米での研究結果からの輸入品である都合、日本には専門家がほとんどいない状態で、日本国内で取材した情報だけでギフテッドの番組を作るということに、そもそも限界があるだろうということです。取材のためのリソースが国内にほとんどないわけですから。

その結果が、前回の特集のような「IQ130以上がギフテッド」という時代遅れのギフテッド観に基づく番組制作だったり、今回の特集のような何をギフテッドとしているかよくわからない、伝わらない、消化不良を引き起こす番組作りにつながってしまっているのではないかなあと。

もちろん制作費の問題など色々な制限があるのは承知していますけど、まずはきちんと海外のしかるべき研究機関に専門家を訪ね、ギフテッドという概念について掘り下げることが制作側に必要なのではないかと思います。NHKスペシャルの「食の起源」では海外取材もふんだんに取り入れられていたので、なんとかなりませんかね・・・?そしてもし可能ならば、海外のギフテッド教育の現場や、そこで過ごす子供達、ギフテッドとして育った人達の素顔を伝えて欲しいなあと。

実際のところ、ギフテッドというラベルを使っていないだけで、突出した能力や興味、拘り、ユニークさを持つ人達を紹介する番組というのは、テレビの世界では全く珍しくありませんよね。中にはそうした人達の挫折体験や不適応面を紹介する番組もあります。

そういう意味では、今回の番組はギフテッドという言葉を使ったという点以外、あまり目新しいことはしていないとも感じられました。社会的不適応の悩みを抱えた人も紹介されていましたが、その悩みがギフテッドや高IQ、突出した能力特有に付随するかどうかまでは掘り下げられていませんでしたしね。

もしも次回があるならば、ギフテッド特集ならではの、ギフテッドの本質に迫る内容を期待したいです。

 


番組を観て、「ギフテッドとは何か?」という議論について興味を持たれた方、モヤモヤした方は、以下の記事もぜひご覧ください。 

 

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