努力する子の育て方

努力に勝る才能無し!努力の才能を育てる教育法、ボルダリングによる育児ハック実践、我が家の超個性的なギフテッド児の生態など

「IQや学力は重要じゃない」そう気づかせてくれた人達のこと(2)

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(1)からの続きになります。未読の方は是非(1)よりお読みください。

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「頭はそれほどでもないけど自分でどんどんやる」Bさんとの出会い

私がつくづく幸運だったのは、Aさんの相手をしていたのと同じタイミングで、Aさんとまったく対照的なもう一人の学生、Bさんとも関わりを持てたことでした。

Bさんは、Aさんのような受験エリートでもなければ、受賞歴といった顕著な実績もありません。頭の回転はお世辞にも速いとは言えず、少し込み入った理屈になると、理解するのに時間がかかります。

さらにBさんは、いわゆる要領の悪い人です。何かを最初から上手くこなすということは、滅多にありません。失敗するかもなと思ったところでは大体失敗しますし、それを見越して懇切丁寧に説明しておいたとしても、予想もしていなかった部分で失敗するということがしょっちゅうでした。

だからBさんとやりとりを始めた当初、こんな感じで本当にやっていけるのかなと、正直不安でした。第一印象では、BさんよりもAさんの方がずっと優秀に見えたのは間違いありません。同じ内容の短期的な課題を与えたならば、その出来が良いのは圧倒的にAさんで、知的能力という点では、二人の間には結構な差を感じました。

しかし、結果から書いてしまうと、最終的なプロジェクトの成果物を比べたら、優れていたのは圧倒的にBさんでした。それはもう比べ物にならないくらい、Bさんの圧勝でした。

Bさんは、明らかに努力の人でした。Bさんは沢山失敗します。でも、それでも全くへこたれません。落ち込んでも、何度でも立ち上がって、再挑戦します。失敗しても、失敗しても、何度も試行錯誤して、いつの間にかできるようになっています。どうすれば良いか、人に聞いたり自分で調べたりしながら、少しずつ前に進んでいきます。どうしたらもっと上手くできるか、自分の頭で考えて、良いアイディアが思いつけば積極的に取り入れて実践していました。

なんでBさんはこんなに頑張れるのか、その秘密を明らかにしようと、Bさんにも色々なことを教えてもらいましたが、Bさんは別に何か特殊な教育を受けてきたり、親から努力こそ全てとしつけられてきたわけでもなく、聞いた範囲では、Bさんの生育歴に特筆すべきものは見出せませんでした。ただ、少なくともBさんの親は、過干渉とは縁遠い人だったようです。Bさん自身も「いつも私の意見を尊重してくれた親には感謝している」とはっきり述べていました。

 

 

AさんとBさんの比較から見るAさんのチグハグさの原因

とても好対照なAさんとBさんを目の前で見て比較分析できたことで、「社会で上手くやっていくために大切な能力」に関して非常に色々なことを考えさせられました。中でも深く考えたと思うのは、AさんとBさんの違いを生んでいる根本的な要素は何か?という問題です。

AさんとBさんを分かつものが、地頭の良さや学力ではないことは明白です。しかし、それならばAさんとBさんの違いを生んでいるものは何でしょうか?表面的に見れば、AさんとBさんには自発性とか、行動力とか、粘り強さとか、色々な面で違いがありました。しかし、そうした行動面での特徴の差は、すべて動機付け、特に内在化プロセスの部分に求めてしまえるであろうというのが、二人を目の前で見ていた私の結論です。

動機付けに関しては、以下の記事に詳しく書いています(こんな記事を書けるようになったのも、そもそもはAさんとBさんについて考え始めたことがきっかけでした)。

 

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ずっと不思議だったのは、Aさんのチグハグさです。Aさんは自分で興味を持ったプロジェクトを提案してくるし、それを自力で進める意思もある、ある意味やる気のある人です。自分で自分の自発性の課題には気づいていて、それをなんとかしたいという気持ちもある様子。

でもそれが行動に結びつかない。自分で何も考えられないし、忘れてしまう。やらない言い訳もしてしまう。でもAさんはいつだって、嘘はついていないように見える。なんでそんなことが起こるのか。

Aさんと話をしていて強く感じたのは、Aさんには自分の価値観が無いということでした。議論の時も、Aさんは常に権威主義的な視点から物事の正しさを判断しようとする癖がありました。それは「誰が言ったか」や「どちらが多数派か」で物事の正誤を判断する非論理的な思考プロセスであり、要するに自分でほぼ何も判断をしていないということです。

決定的に思えたのは、Aさんに「どうして自分の自発性が問題だと思うか?」という質問をぶつけた時Aさんの回答が「ずっと親に言われてきたことなんです」だったことでした。「今まで色々自発性のことで失敗してきたんだ?」と重ねて聞くと、Aさんは「たぶん・・・よく覚えていないんですけど、親に何度も言われてきたので」と言うのでした。Aさんは自分の価値観ではなく、親の価値観で自分を判断していたのです。

Aさんは、物事の善悪や正誤を判断するための、自分の価値観をしっかり持たずに成長してきたのです。そして、自分の価値観を持つ代わりに他人(特に親)の価値観を単純にコピーして使ってきました。そこに価値観の内在化に相当する思考過程は、まったく介在していなかったのです。これは恐らく、Aさんの家庭や学校、特に非常に抑圧的な母親に対する適応術だったのでしょう。

Aさんの高い知能とこの適応術のコンビネーションは見事で、言葉だけ聞いていれば、Aさんは意欲に溢れ、とても内省的な人間に間違いなく見えていました。きっとそれが、Aさんの親が望んだAさんの姿であったことは、容易に想像できます。

Aさんの行動の動機は、突き詰めていくと最終的には「誰かがそれが良いと言うから」という外発的な動機づけであり、内在化プロセスが機能していないAさんの中では、Aさんの動機付け状態は、外発的動機付けから一歩も進まないのです。

一方、Bさんは「何がしたいか」を自分で考えて行動しているのが明確でした。その動機付け状態は当然内在化を経てより自律的な段階に移行しており、だからこそ失敗にもめげずに目標に向かって行動することができていた。そう考えれば、AさんとBさんの行動の違い、Aさんのチグハグさを、十分に説明できる気がしました。

AさんやBさん達が教えてくれたこと

AさんやBさん達が私に気づかせてくれたこと、それは「人の性格は大切な能力」だということです。それまで私が認識できていた人の能力というのは、運動能力や知能といった測定方法が確立されているものだけだったということに、初めて気がつきました。

抽象的で、数値化できず、厳密に言葉で定義していくことも難しい人間の性格。それが知能や学力を超えて、人間のパフォーマンスにどれほどの影響を与えうるか、AさんとBさんのコントラストは、それを非常に明確に示してくれました。

おそらく、AさんとBさん、どちらか片方の相手をしただけだったら、私の理解はそこまで深まっていなかったと思います。「頭が良くてもダメな人はやっぱりいるな」「努力ってやっぱり大事なんだな」そんな表面的な理解で終わって、努力や行動を生みだすための原動力は何か、という疑問を持つまでには至れなかった気がします。

だから、二人が同時に揃って目の前に現れたのは、私にとっては本当にラッキーでした。この体験が私の教育観や育児観に与えた影響は計り知れません。私は二人に色々指導はしましたけど、教わったことの価値と量を考えたら、実質的な教師はどちらであったか、ちょっとわからないなと今でも思っています。