努力する子の育て方

努力に勝る才能無し!努力の才能を育てる教育法、ボルダリングによる育児ハック実践、我が家の超個性的なギフテッド児の生態など

「IQや学力は重要じゃない」そう気づかせてくれた人達のこと(1)

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なんだか最近IQの話ばっかり書いているような気がしますが・・・それはギフテッドについての議論で避けられないだけで、IQは本質的に重要なものではない、と私は思っています。

一番大切なのは、自分で努力し続けるための「努力の才能」。そしてそれは結局個人の性格なので、努力を続けていけるように性格特性のバランスを、育児や教育の中で考えていく必要がある。それが私の基本的な考え方です。

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しかし、私は今でこそこんなブログを書いていますけど、その昔は「社会でうまくやっていくためには、地頭が大事なんだろうな」なんて、漠然と考えていたクチでした。いや、なんとなくそう思っていただけで、それは単純に何も考えていなかった結果でした。

そんな私が「本当に大切な能力は何か」を真剣に考え始めたきっかけ。それは、あまりに強烈すぎて今でも忘れられない、とても興味深い人達との出会いにありました。(以下、万が一の個人の特定を避けるために、情報は十分にぼかしたり、改変してあります)

「格別頭が良いのに何もできない」異様な存在Aさんとの出会い

私は仕事柄たくさんの大学生に出会います。そして、時に学生達の自己実現や研究プロジェクト推進に力を貸すことがあります。Aさんは、Aさん自身が興味をもったプロジェクトがあるということで、私が力を貸すことになった学生でした。

このAさんは、知的には非常にハイレベルで、中学受験の世界でいわゆる「御三家」と呼ばれる難関私立の出身であり、全国的な科学コンテストで上位の成績をおさめていました。通っている大学での成績も抜群です。その頭の回転は、ちょっと話をすればハッキリわかるキレ具合でした。

ところが・・・そんなに頭が回る一方で、Aさんにはその高い知能と経歴からは想像できない、もう一つの大きな特徴がありました。Aさんは誰かに何かを言われなければ、基本的に何もしない、できない人だったのです。

AさんのプロジェクトはAさん自身の興味によって進めていくことになっていて、私はAさんのアイディアを聞きながら助言したり方向性を一緒に考えたりすることになっていました。しかし、待てど暮らせど一向に、Aさんのプロジェクトは始まりません。そもそもAさん自身から、何のアイディアも、計画も出てこないのです。

Aさんと顔を合わせた時に「そういえばAさんのアレ、どうするの?」と聞いても、「あー今ちょっと考えていて・・・」という返事が続いて、簡単に3か月ほど経ってしまったそんな状況で、私も色々不思議に思いました。Aさんは一体、何がしたいのだろう?Aさんの気が変わってやる気がなくなったなら、そう言ってもらえれば全然問題ないのに。

そこで、私が考えていてもらちが開かないと、Aさん本人に直接聞いてみました。すると、まずAさんは、自分のプロジェクトに興味を持っているのは本当だと言います。多少は下調べなど、準備もしてある。しかし、いざ本格的に計画をたててみようとすると、上手くいかない。なんだか逡巡しているうちに、今まで考えていたことを忘れてしまう、と言うのです。

Aさんの知的能力は折り紙付きです。記憶力だって、悪いはずがない。そんな人が自分の興味を持ったことの計画がたてられない、それに加えていままで考えていたことを忘れてしまうなんて、そんなことはあり得るのか。ちょっと理解ができませんでした。

そんな忘れそうにないことを忘れてしまうのは、何か精神的に調子が悪かったりするのかと疑いましたが、そういうことではないようで、大学の授業も、バイトもサークルも、しっかりと出られているようです。

思わず「それは要するに、自分のアイディアにそこまで興味が持てないということじゃないの?」と聞いても、それは違うときっぱり言います。しかし、それならばなおのこと、その興味を持っているアイディアについて、考えていたことを忘れてしまうなんてことがあり得るのか、それはかなり矛盾を孕んでいると感じられました。

これは中々興味深い人に出会った。しかし、このAさんのことを理解するためには、あまりに情報が足りません。そう思って、Aさんについて、Aさん自身からさらに色々聞いてみました。そして、Aさんが教えてくれたのは、Aさん自身、自分の「自発性のなさ」が課題であると感じているということでした。

「自分は問題を出されれば解けるが、自分で問題を見つけるとか、答えがあるかどうかわからない問題について考えていくのが、とても苦手である」それがAさんの自己分析でした。

曰く、「自由に何かしてみてと言われると、何をすればよいかわからない、判断できない」と。だから、自分の興味の対象があり、それについて何かしようとしても、何も思いつかない。そして、そんな時間を過ごすうちに他のことを考え始めて、それまで考えていたことを忘れてしまうと言うのです。話の中でAさんが聞いてきました。「そういう能力は、どうすれば訓練できますか?」

「Aさんは、どうすればいいと思う?今までどんなことを考えてみた?」私が質問で返すと、Aさんの回答は、ちょっと私の想像を超えていました。「今まであんまり考えたことがなくて・・・誰もそういうことを教えてくれなかったので」「考えても、必ず正しい答えが出せる保証がないですよね」

これはすごい、ちょっと今まで会ったことの無い種類の人だという確信が持てました。会話の中で私が理解したAさんの特徴は、とにかく「やらない言い訳ばかり口にする」というものです。「どうせ・・・」「でも・・・」「そんな風に考えても・・・」何か自分が行動を起こすことに結びつく論理展開を察知すると、Aさんは先手を打つかのように、ひたすらネガティブに対応し続けます。

Aさんの高い知能は、やらない言い訳、深く考えない言い訳を作り出すところにひたすら役立っていました。それはまさに「思考停止のための知能」と言っても問題ないくらいに。

しかし、「それなら、何かやる気になったらまた再開することにして、今は一回プロジェクトは凍結しておいたら」と試しに提案してみると、そこにはいつも同じ答えが返ってくるのです。「でも、興味はあるんです」

であれば、とAさんには、Aさんがプロジェクトを進めるためのとっかかりになりそうな本を紹介しました。Aさんが興味を持っている内容を考えれば、読むことでアイディアや知的好奇心が刺激されるのではないか、そういう期待が十分に持てる内容のものです。

Aさんはすぐにその本を読んだことを報告してくれて、そしてこう続けました。「次は何をしたら良いですか?」・・・これには中々、困ってしまいました。

このAさん、こんなにチグハグでよくわからないのに、話している印象におかしなところはないのです。真面目でハキハキしていて、社交性もあります。決して斜に構えて不真面目なわけでも、嫌な奴というわけでも、能力が足りていないわけでもない。

友人からも頼りにされていて、グループワークがあれば、いつもリーダーを任されていました。でもとにかく、自分で率先して何かしてみるということが、できません。リーダーだって、推挙されるからやるだけで、役割も目的を与えられていたからこそできていたのです。

・・・水道の蛇口の前に立ち、「水が飲みたい」と言いながら、蛇口を開けない言い訳を繰り返している人・・・そんなアンビバレントさを持つAさんのインパクトは、中々すごいものがありました。

 

 

Aさんを作りだした家庭環境

「この人なんでこんななの?」あまりに不思議で、さらに色々話を聞いて、分析しました。これほど好奇心も自発性も感じられないのに、高い学力を身につけて難関試験を突破したり、科学コンテストで良い成績をおさめることがなぜ可能だったのだろうか?

見えてきたカラクリ、そしてすべての元凶だと思われたのは、Aさんの親でした。Aさんの母親は、非常に抑圧的な態度で子供の意見を否定しながら自分のやり方に従わせる人だったのです。そして父親は、そんな母親のやり方に一切口を挟まない、子育てに興味のない寡黙な人でした。

母親の口癖は「子供の癖に、親の言うことが聞けないの」「お前はいつもうまくできないんだから、もっと言うことを聞いてちゃんとやりなさい」「そんな風に口ごたえするようじゃ、将来まともな大人になれない」。でも、その親の「厳しい」指導があって、難関中学に合格でき、科学コンテストも入賞できた。

だからAさんは、親の物言いに違和感は感じているけれど、そうして育ててくれたことに感謝していたのです。しかし、悲しいけれど、そのAさんが感謝している親との関係性が、Aさんから大切なものを奪ったのは、恐らく間違いのないことでした。

調べてみると、機能不全家庭や毒親の元で育った子供の愛着障害、アダルトチルドレン問題においては、子供の自発性の欠如が大きな問題となることが指摘されています。そして、Aさん以降に私が出会った、Aさんのような人達、知能面で恵まれているにも関わらず、何をしたいかよくわからない、自発性や好奇心が欠如した人達も、詳しく話を聞いてみると、やはり皆親が抑圧的か、機能不全家庭の出身者でした。

Aさんや、それに似た人達のその後の様子を見ていても、就職活動が上手くいかない、就職先ですぐに戦力外になってしまう、そもそも社会に出て何がやりたいのか自分でもわからない、という残念な道筋をたどる人が多いです。そこには別に何の驚きもありません。

しかし、Aさん達は、皆間違いなく知能と学力は高い人達でした。それが今後社会で何かに生かされて、創造性につながることは、きっとない。Aさん達はその能力を持てあましながら、きっと今後も「やらない言い訳」を生みだし続ける。それは素直に、この社会の損失であると感じられました。

(続きます)

 

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