以前チェスとIQ(知能指数)の相関関係について記事をまとめた時に、色々調べていて一つ気づいたことがありました。それは、チェスや碁にIQとの相関研究が沢山ある一方で、将棋とIQの相関を調べた研究報告は、多分一つも無いということ。
まあ知能の研究をしている人は日本にほとんどいないので、日本特有のボードゲームである将棋と知能の研究例が無いのは当然と言えば当然かもしれません。
それに将棋とチェスのゲームとしての類似性を鑑みれば、これまでのチェスの研究結果が将棋にそのまま当てはまる可能性は高く、将棋と知能の研究は新規性の面でイマイチとなっても仕方のない話。
加えて、IQという指標が大して役立たないということもまた様々な研究の結果としてわかってきた昨今、もはや誰かが新たに将棋とIQの関係性を調べたりすることは無いのかも、なんて漠然と思っていました。
ところが先日、とある雑誌上で、これまで全く研究報告が無かった将棋の名人の知能指数が掲載されているのを見つけて大変驚きました。なんという学術誌かって?それは、別冊少年マガジンです。そう、漫画雑誌の。
漫画で将棋名人のIQが公開されるよもやの事態
今回、恐らく史上初めて将棋の名人のIQが公開されたのは、将棋棋士である渡辺明氏の奥さん、伊奈めぐみさんが夫の渡辺氏の日常を描いているノンフィクション漫画『将棋の渡辺くん』。
山は登らないのに山岳関係の漫画や小説が好きな私は、将棋は指さないのに将棋関連の漫画や小説もまた大好きで・・・この『将棋の渡辺くん』も、毎月欠かさず読んで単行本も買っているお気に入り。
今月もいつものように最新話をチェックしに行ったところ、そこにはなんと、渡辺くんと作者の伊奈さんが夫婦そろって知能検査を受けに行ったという大変興味深いエピソードが。
本日『別マガ』7月号発売です。今月は真面目なテーマを描きました。いつも真面目ですが。 https://t.co/VdxRArW8zJ pic.twitter.com/dTWEPVldKW
— 伊奈めぐみ (@speech_ballon) 2022年6月9日
えっ、渡辺名人のIQを漫画で公開しちゃうの・・・?なんというか、前代未聞・・・。いつも笑わせてもらっていて毎月楽しみにしている『将棋の渡辺くん』だけど、今月の話はもしかしたら後世の研究論文で引用されたりする可能性もあるかもしれないな、なんて思いました。
将棋の名人の知能検査結果
言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度の4つの項目からなるテストだったという解説があったことから、渡辺くんと伊奈さんが受けた知能検査は信頼性と妥当性がきちんと確認されているウェクスラー式成人知能検査の本邦最新版、WAIS-IVだと推察されます(まともな知能検査とそうでないものの違いが気になる方は、以下の記事などをどうぞ)
詳しい検査結果から読み取れる二人の得意不得意、それを聞きながら繰り広げられる渡辺・伊奈夫婦の会話は是非とも漫画で楽しんで頂きたいと思いますが、気になる渡辺くんのIQは・・・なんとも予想外の99。
ウェクスラー式知能検査は平均スコアが100になるよう標準化されているので、これは日本人の平均ど真ん中の数値です。信じられない!という方は、別冊少年マガジン2022年7月号掲載の『将棋の渡辺くん』をチェックしてみてください。マガポケのアプリでも読むことができます。
渡辺名人の頭脳の秘密はIQと関係がなさそう
この漫画の主人公「渡辺くん」こと渡辺明氏は、目下3連覇中の現役名人。初代永世竜王の資格に加えて永世棋王の資格も持ち、総タイトル獲得数は歴代4位、今の将棋界でトップの一角を占めるだけでなく、長い将棋の歴史の中でもかなりの傑出度を誇る棋士です。
将棋でこれだけ傑出した実績を残してきた渡辺明氏のIQがごく平均的な数値であったというのは、将棋の強さとIQとの関係の無さを示す大きな証拠と言えるでしょう。
まあしかし、将棋とIQの無関係性は、これまでに明らかになってきたチェスや碁とIQとの間の相関の低さを考えれば、さもありなんという話。
今回個人的に何より意外だったのは、渡辺明氏の非常に知的な話し方もまたIQとは関係なさそうだという点でした。
知らない方は、下の動画のインタビューを見たら多分納得してもらえると思いますが・・・渡辺明氏の喋り方は早口で淀みなく、また論理的で、非常に頭の回転が速い印象を受けます。
質問に的確に応対し、筋の通った内容をこれだけのスピードでハキハキ答える、その知的としか言いようがない話し方もまた、知能検査で測る認知能力とは特に関係がなさそうだというのは・・・個人的にかなりの驚きでありました。
大人のIQからわかることって?
話し方から受ける印象とすら上手く合致しないIQテストの結果・・・以前から強く疑問に思っていることではありますけど、IQテストからわかることって、IQテストを解く能力以外に本当に一体何があるんでしょうね?
子供の場合はIQテストを解く能力が知的発達の目安になるというエビデンスが蓄積されていますけど・・・大人の場合、IQテストを解く能力の意義を示した研究証拠は全く無いと言って良い状況です。
今回判明した将棋の名人のIQは、知能検査が測る能力と我々が社会で行う知的活動との間にある大きな大きな隔たり、そして、健康な人間のIQからわかることの乏しさというものを一層強く実感させてくれますね。
「IQ意味無いです」
将棋の話だけに、そんなパロディーフレーズも頭をよぎるのでした(↓元ネタ)。
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