努力する子の育て方

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うちの子のADHD脳を考える・多動について

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プールサイドのベンチに座り、スイミングクラスの開始を待つ20名程の小学生達。その中にただ一人、大人しく座っていない子がいます。ベンチに腰掛けた姿勢から後ろ手をつき、両足を高く持ち上げ、ベンチの上でくるくると、奇妙な体勢で回っている子。そうです、ケイです。

うちの長男ケイは、じっとしていられない子です。家で椅子に座っていても大体どこかしら体が動いていますし、ずっと喋っています。ケイは児童精神科でADHD(+アスペルガー症候群)の診断をもらっているので、ケイの多動は、専門家のお墨付き。発達外来の診察室でも、キャスター付椅子で当然のようにぐるぐる回っていました。日常的に見ていても確かにじっとしていないし、ケイの多動は素人目にもよくわかります。

ケイには色々とぶっ飛びな特性があるので、ケイの脳みそがいったいどんな風になっているのか、考えたり想像を巡らしたりするのは非常に楽しいことです。そこで今日は、ケイの持つ色々な特性の中で、ADHD様の多動について、考えたことを書いてみたいと思います。

 

うちの子の多動傾向

ケイはとにかくじっとしているのが苦手で、静かに待っているということができません。冒頭のプールサイドでの様子のように、何かを待っている時も大人しくしておらず、とにかく動きだしたり、しゃべりだしたりします。

ケイの多動エピソードの多くは、やることがない状況に集中しています。ひとたび何か始めれば(例えば読書)、今度は何もせずにじっとそれに集中することができます。こうした時、ケイはまったく多動の兆候を見せません。

本など興味を惹く内容に集中した際に、それが続かずに動き始めてしまうということは、ケイの場合ほぼ無いといっていいくらいです。だから、授業中、何かに取り組んでいる時、ケイに多動の問題が出るということはありません。問題が出るのはいつも、自分のやることが無くなった待ち時間です。

あと、何かの活動中に余計なことを追加でし始めるというパターンもあります。以前もちょこっと紹介しましたが、ケイは基本的にまっすぐ歩きません。何か自分ルールを作ってトリッキーな進み方をしたり、普通に歩く動作ではなく、余計な動きを付け足して、踊っているみたいにクネクネ歩いたりと、大抵何やら妙な歩き方をしています。

良い説明が中々みつからなかったうちの子の多動

ADHDの原因はまだよくわかっていない問題ですが、その多動や衝動性の原因にはいくつか仮説が考えられており、「認知や行動を抑制制御するための脳機能の発達異常」という説が有力視されています。

行動を抑制する脳機能が弱ければ、たしかに多動や衝動性の問題は簡単に説明できます。ケイがなんでこんなに落ち着きがないのかと思案する時、私もこの抑制機能の異常の線をずっと考えてきました。ケイは我慢のできない子で、自分の行動が抑制できないのではないかと。

しかし、ケイの多動や衝動性について、この抑制機構の働きが弱いという考え方は、どうしてもしっくりときません。なぜならケイは、普段から感情や行動を十分抑制できていると感じる場面が多いのです。

例えば、楽しみにしていたイベントが急きょ中止になってしまった時、ケイは当然残念がりますが「仕方ないね」と言ってすぐ納得します。怒ったり、声を荒げたり、イライラするということはありません。

ケイがよく遊びに行く児童館には投薬治療中のADHDのお友達がいるのですが、その子に突然暴力を振るわれても、ケイは相手に「やめて」と伝え、それで解決しなければ周りの大人に助けを求めます。下校中のいじめに遭った時も、ケイが暴れたり興奮したりしていない様子を、この目で見ています。ケイのこうした様子からは、感情や行動のコントロールが難しいという印象は受けないのです。

また、ADHDや自閉症スペクトラムなどの発達障害では、感覚過敏や感覚統合など、感覚刺激への反応性の問題が多動に結びつくという指摘もあります。しかし、ケイの場合は聴覚過敏があるにも関わらず、聴覚情報の処理は平均以上に良好です。

聴覚情報処理の課題を含むWISC-IVのワーキングメモリ―指標でも、ケイは120を超える高スコアをマークしています。普段の生活の中でも、雑音の中で目的に集中する能力はむしろ優れているように見えます。

また、ケイは運動も得意な方で、協調運動性や姿勢制御の困難など、感覚情報処理の問題を疑う運動面での兆候も見られません。

 

 

脳機能が高いことで生じる多動の可能性

それならば、なぜケイは多動なのか?と考えていて、ふと思いついたことがありました。脳の中に活動を抑える「抑制系」があるならば、活動を起こす「駆動系」も存在することになります。すると、抑制系が弱いというのは、あくまで相対的な問題です。「普通の駆動系に対して抑制系が弱い」という状況も考えられる一方で、「普通の抑制系に対して駆動系がとても強い」という状況も考えられるであろうと。

そう考えてみると、ケイが自制的に見える、ケイの抑制系が十分働いているように感じられるケースというのは、何か起こった事象への対応、つまり「外部から刺激が与えられた場合の反応」です。一方、ケイが多動に見えるケースというのは、多くの場合何もすることがない、刺激がなくなった状態の行動です。とすると、ケイの多動行動を生みだしているのは、外からの刺激に依存しない、ケイの中で生まれる内的な駆動力だと考えるほうが自然です。

旺盛な好奇心が多動の原動力である可能性

ケイの脳には、普通の抑制系を凌駕する、高い出力を持つ駆動系が存在しているのでは?そう発想を転換すると、ケイはまさにそれに当てはまる性質を持っていることに気が付きます。それは、ケイの好奇心です。

ケイは好奇心の塊のような子です。小学校にあがった今もケイの「なぜなぜ期」に終わりは見えず、「○○って何?」「××ってどういう意味?」朝、最初の会話がこんな質問から始まることも珍しくありません。「やってみる?」と聞かれたらまず間違いなく「やる」と答えますし、大抵の場合は聞かれないうちから「それやってみたい」と言いだします。Youtuberがやっている過激な遊びをやりたいと言いだして困ったこともありましたし、スカイダイビングをしてみたくて、大きくなるのを待っている、そんな子です。

好奇心というのは内的に生じる情報や刺激探索行動のモチベーションです。つまり、上で考えていたケイの生みだす強い内的駆動力に、まさにピッタリ当てはまります。それならば、旺盛に好奇心を生みだすケイの性質で、ケイの多動がどんな風に説明できるか、次はそれを考えていくことにしました。

最適情報処理レベルによる多動の説明

人間の好奇心が生まれるメカニズムについては以前の記事でも触れました。人間には快適と感じる情報入力のレベルというものが存在しています。感覚刺激や情報など入力情報の量がこの最適レベルを大きく下回っても上回っても、人間は不快感を感じます。特に入力情報の量が最適レベルを下回った時には、人間は退屈として不快感を感じ、情報入力量を最適レベルへと回復するために、情報を自ら求める探索行動を起こします。これが、人間の好奇心が生まれるメカニズムの一つであると考えられています(詳しいことは以下の記事を参照下さい)。

この情報処理の最適レベルは、人によって高かったり低かったりと、個人差があることが知られています。最適レベルが低い人は入力情報の量が減っても不快感を感じにくい一方、入力情報量過多による不快感を感じやすい傾向にあると言えます。逆に最適レベルが高い人は、入力情報が不足した状態になり易く、すぐに情報や刺激を求める行動を始める傾向にあると考えられます。

つまり、情報処理の最適レベルが高ければ、退屈により不快感を感じやすく、それゆえに好奇心旺盛になります。すると、好奇心旺盛なケイが人並み以上に高い最適情報処理レベルを持っていると仮定すれば、やることがなくなるとケイが多動性を示すことが非常に上手く説明できます。

この仮説に従えば、ケイは普通の人よりも退屈しやすく、退屈による不快感も強く感じるのです。普通の人がそれほど気にならない待ち時間が、ケイにとっては普通以上に退屈で、不快な時間に感じられている。そしてそれは、ケイの抑制機能の問題ではなく、最適情報処理レベルを決めている、情報や刺激希求の駆動系が強いためだということになります。

一般的に、情報処理能力が高い人ほど、最適情報処理レベルも高くなると考えられます。ケイのWISC-IVは、ワーキングメモリ―指標と情報処理速度指標のスコアを含めて、全体が120を超えるバランスの良い高スコアをマークしています。高い知的能力、速い情報処理能力をケイが持つという事実は、高い最適情報処理レベルをケイが有するという仮定と矛盾しません。

このように、高い最適情報処理レベルを持つという仮定は、ケイの性質と非常によく合致し、かつケイの多動傾向をとても良く説明してくれるのです。

 

 

うちの子は普通に歩くのが退屈なのかどうか

高い最適情報処理レベル、そして強い好奇心の駆動力が多動の引き金になっているという仮説は、これまでに試みたどんな説明よりもケイの特徴に矛盾なく当てはまると感じました。

しかし、そう考えると、また一つ疑問が生まれてきます。ケイが普通に歩かないのは、退屈だからなのだろうか?ただ単純に普通に歩くということが退屈と感じるなんて、そんなことがあるのだろうか。子供の頃を思い返しても、確かに学校の帰り道遊びながら帰ったことはありましたが、ただ歩くのが退屈だという感覚は、これまでの人生で覚えがありませんでした。

まっすぐ歩くのが退屈という感覚は、やはりちょっと想像ができません。そこで、ケイに率直に聞いてみました。親が何を期待しているか悟られないように、質問の意図は伝えずに唐突に聞いてみます。「ケイ君はさ、ただ普通に歩くのって、つまらないの?」すると、突飛な質問にも関わらず、質問の意図を聞き返すこともなく、即座に返事が返ってきました。

「うん、そうだよ」

ただ歩くことが、そこまで退屈に感じる人もいるのか。それは率直に言って新鮮な認識でした。

ケイの多動が高い最適情報処理レベルだけでどこまで説明できるのかは、まだよくわかりません。しかし、この捉え方は、ケイの頭の中がどうなっているか理解する上で、かなり有効な仮説だという感触があるので、今後もケイのことを観察しながら、検証していきたいと思っています。

また考えてみると、この「高い最適情報処理レベルを持つ脳」という考え方はギフテッドの特徴や、ギフテッドの過度激動モデルと相性が良くて、また色々と思索が捗ります。

やはりケイの多動は才能だと思う

ケイがIQテストで高スコアをマークする理由としても考察していますが、ケイの多動と思える行動は、それ自体が脳の恒常的なトレーニングとして機能している側面があります。そして、ちょっとの退屈ですぐに行動し、喋り始めることで、ケイが日常的に経験する知的なインプット/アウトプットは、多動がない場合に比べて大きく増加していると考えられます。

そう考えるとやはり、多動はケイの成長を支える性質であり、なおかつ才能の発露であると言って良いと感じます。「ADHDは才能」という言説もよく目にしますが、その症状の原因によっては、その通りというケースもあるのだろうとケイを見ていて感じます。


今度またケイのスイミングを見学に行けば、プールサイドで一人忙しいケイが、きっと目に留まることでしょう。でも、妙な多動はケイの好奇心の旺盛さと、脳がフルスピードで回転している証。そう思って、これからも暖かく、見守りたいと思います。

 

追記

その後ケイのADHD脳についてさらに考えた内容を記事にしました。
 

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