最近ケイのADHD特性について考えて、一般的なADHD児の特徴がしっくりこないケイの多動や過集中といった特性に関して、個人的にはそれなりに納得がいくモデルを作ることができました。
うちの子のADHD脳を考える・多動について - 努力する子の育て方
うちの子のADHD脳を更に考えるー好奇心と感受性によるADHD特性の解釈 - 努力する子の育て方
ケイは、ADHDに加えてアスペルガー症候群の診断もあります。では、そのアスペルガー症候群の特性の方についても、彼の強い感受性や好奇心で説明がつくだろうか?そんな風に考えてみたかったのですが、それには大きな問題がありました。
そもそも、アスペルガー症候群の特徴に、ケイが良く当てはまらないのです。これはケイが診断をもらった直後からある程度感じていたことでしたが、アスペルガー症候群や自閉症スペクトラムについてよく調べ、ケイの特性をよく分析していく中で、この違和感はどんどん大きくなってきました。
アスペルガー症候群の定義と特徴
アスペルガー症候群には大きくわけて2つの定義があります。一つは「ウィングの3つ組」の自閉症概念を基準とした定義で、「社会性の問題」「言葉とコミュニケーションの問題」「想像力とそれに関連する行動の問題」の3つの問題を持つ自閉症スペクトラムの中で、「言葉とコミュニケーション」の問題が目立たないグループをアスペルガー症候群とする定義です。
もう一つは、国際的な診断基準であるICDやDSMで用いられているもので、広汎性発達障害または自閉症スペクトラム症の中で、知的発達と言語発達に遅れが見られず、社会的相互関係の異常と、常同的・限定的・反復的な行動や興味、活動パターンが見られるものをアスペルガー症候群とする定義です。
これらの2種類の定義は、表現は違えど概ね同じようなアスペルガー症候群の特徴を表現しているといえます。例えば、知能と言語発達についてはどちらの定義でも「軽微か問題ないレベル」と似通っており、「社会性の問題」と「社会的相互関係の異常」は両方共、人間関係構築の困難、非言語的コミュニケーションの困難、情緒的交流の困難、共感性の欠如などの特徴を表します。また、「想像力とそれに関連する行動の問題」と「常同的・限定的・反復的な行動や興味、活動パターン」も、こだわりの強さ、変化への融通の利かなさ、想像力を伴う活動の少なさといった共通の特徴を表しています。
うちの子に当てはまらないアスペルガー症候群の特徴
こうしたアスペルガー症候群の特徴の中で、うちの子に当てはまらない、違和感の大本になっているのが「想像力とそれに関連する行動の問題」と「常同的・限定的・反復的な行動や興味、活動パターン」として示されている、限定的な興味、こだわりの強さ、変化への融通のなさ、想像力の欠如といった特徴です。
とにかく興味の幅が広いうちの子
まず、ケイはとにかく興味の範囲が広い子なんですよね・・・。何か提案すればとりあえず「やる!」と答えて実際やりますし、「やりたい!」と自分から言ってくるものも、最近覚えている中ではサーフィン、スカイダイビング、鋳造(鉄を打ってみたいらしい)、朝顔で色水を作る、手漕ぎボートなど実に多岐にわたっています。
確かに、ケイが好きなことの中には駄洒落であったり、数字や算数であったり、標識や看板の意味といった、アスペルガーの人が好みがちな事柄も含まれますが、それはケイが興味をもつたくさんの物事の中に、そうしたものが含まれると言うのが正確な表現であって、そうしたものだけにケイが興味をもつわけではありません。
何かをコレクション的に機械的に全部覚えるということも、これまでしたことがありません。クラスメイトの名前をたくさん覚えている、といったことは多いのですが、それは単純に記憶力の良さを反映しているだけで、何か特定の対象に限って覚えているということでは無さそうです。
従って、限定的な物事へのこだわりという特徴は、むしろケイの対極にあるものなのではないかと考えています。
融通の利かなさ、想像力の無さも感じない
また、融通の利かなさ、変化への弱さというのも、ケイにはあまり感じたことがありません。予定が急に変わったり、違う道を通ったり、いつもと違うやり方をしてみたりしても、それで何か起こった試しがないですし、むしろケイ自身が色々突発的な予定を提案したり、始めてしまったりするので、親が振り回されるということの方が多い様に思います。
そして、想像力の欠如。ケイは話が一方的なところがあって、それが「想像力の欠如なのかな?」と考えていたこともあったんですが、よく見ていると、ケイは普通に想像力を使ってコミュニケーションできてる場面が多いんですね。例えば、「ケイ、ちょっと手伝って」と言えば「いいよ、○○の準備でしょ」と返ってきたり、「今日はどうだった?」みたいな抽象的な問いかけにも「学校面白かった~」と普通に返ってきます。言葉を額面通りに受け取るというのは、ケイの場合気になったことがありません。
それに、ケイには強い共感性羞恥があります。想像力がなかったら共感性羞恥を感じることが難しいのではないかという違和感は、ケイがアスペの診断を受けたときからずっと感じています。ケイが共感性羞恥でもだえている場面を分析しても、確かに登場人物が恥ずかしい、イタい言動をとっているシーンである場合がほとんどなので、むしろケイはそのシーン、場の空気を敏感に感じ取っているのではないかと思われます。
こうした「想像力とそれに関連する行動の問題」と「常同的・限定的・反復的な行動や興味、活動パターン」に含まれる特徴は、2つの定義どちらにおいてもアスペルガー症候群には欠けることのない重要な特徴とされています。従って、この特徴がもう全く当てはまらないように見えるケイは、アスペルガーと言ってはいけないんじゃないかな?と感じています。
社会性とコミュニケーションの問題は色んな原因で起こる
ケイは対人関係にとても積極的で、誰にでも物怖じせずに話しかけていく子です。しかし、コミュニケーションスキルは高いとは言えず、会話が一方的になったり、急に話しかけて相手を戸惑わせたりと、社会性の問題と判断できるトラブルはかなり経験してきています。幼稚園の頃にこういう問題が頻発したので、私達もケイの社会性のなさは積極奇異型のアスペルガーだからなのではないかと考えていました。
しかし、よくよく考えれば、自閉症スペクトラム症の人がコミュニケーションに問題を抱えるからと言って、コミュニケーションに問題を抱えたら自閉症スペクトラム症ということにはなりません。他人とのコミュニケーションの問題が起こる原因は実に様々なんですよね。
アスペルガー症候群の場合、その社会性の問題は言語、非言語的コミュニケーションの困難、想像力の問題からきていると考えられます。例えば言葉の使い方や理解がおかしいとか、表情や声色、ボディランゲージの持つ意味が理解できないとか、言外の意味を想像できないという障害があって、コミュニケーションに問題が起きるということです。
では、ケイはどうかというと、彼の言語的、非言語的コミュニケーションに、それほどおかしなところは見当たりません。変に丁寧だったり奇妙なしゃべり方もしませんし、敬語で話しかけるのは良く知らない大人に対してだけで、妥当な使い分けができています。
目も合いますし、表情を変えるだけでケイにはきちんとこちらの気持ちが伝わります。ケイ自身も表情豊かで、表情や声色を変えて気持ちを伝えることは日常的にしています。皮肉もきちんと通じるなど、言外の意味を想像するというのも、特に問題ないように感じます。
従ってケイの場合、社会性やコミュニケーションのトラブルが起こるのは、アスペルガー症候群の特徴とは違う原因なのではないかと考えられます。
ではなぜうちの子はアスペルガーと診断されたか?
では、そんなにアスペの特徴が当てはまらないと感じるケイが、なぜアスペの診断を受けたのか?これはまた長くなるので、別の記事にしていきましょう。