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クローズアップ現代+ ギフテッド特集に見る深刻なIQリテラシー問題

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8月28日の夜、ブログのアクセスが爆発的に伸びました。記事をアップしたわけでもないのに妙だなと思って調べたところ、NHKのクローズアップ現代+でギフテッド特集「知られざる天才 “ギフテッド”の素顔」が放送されたことを知りました。というわけで本放送は見逃したのですが、ラッキーなことにすぐに再放送で見ることができました。

こんな風にテレビでギフテッドが取りあげられて、その存在、概念が社会に知られていくのはとても良いことだと思います。突出した能力、型にはまらない個性を持つ人達、そういう多様性が認識され、受容され、そしてきちんと育成される必要がある。そうした問題意識が社会に共有されていくことが、この国の教育システム、そして社会を良くしていくためには、やはり必要であると番組を見て重ねて思いました。

今回の番組はSNSでの反響も大きかったようで、ギフテッドという概念の認知度を上げるという意味での効果は大きかったように感じます。このブログでも、8月28日の夜は1時間の間に普段のこのブログの1日分くらいのアクセスが集中していました。

ほとんどの人がGoogleからの検索で来ていて、番組を見て「ギフテッド」を検索にかけた人の多さを実感できました。こんなネットの片隅のブログでもその影響が観測できるくらい、大きな反響だったのだろうと感じています。そして、番組を見てギフテッドについて興味や疑問を持ちこのブログに巡りついた方に、このブログの情報が少しでもお役にたったのであれば幸いです。

ただ、今回のクローズアップ現代+は、「ギフテッド=高IQ」というギフテッドに関する初歩的な誤解を広める危険性が高い作りだったのがとても残念でした。特に問題だと感じたのは、IQに関する扱いの雑さ、不正確さです。ギフテッドに関してのリサーチに力の入り方を感じた一方で、IQに関しては制作側がきちんと専門家に確認していないのが明白で、こうしたIQリテラシーの低さが、ギフテッドと高IQを無理やり結びつけるような番組構成に繋がっているのではないかと強い危機感を覚えました。

そこで、ここでは今回のクローズアップ現代+に見られたIQに関する問題点について、具体的に指摘しておきたいと思います。

IQテスト風パズルのスコアをギフテッドと結びつけて紹介する愚行

番組の中で一番目を疑ったのは、ギフテッドの一人として出演されていた太田三砂貴さんの「IQ188」というスコアをあたかも正式なIQスコアとして紹介していたことでした。この太田三砂貴さんのIQ188というスコアは、番組内でも文字ベースで紹介されていましたが、SLSE48(Strict Logic Spatial Examination 48)というテストで記録されたものだそうです。

しかし、このSLSE48、正式なIQテストでもなんでもなく、ただのネットで遊べるIQテスト風パズルの一種です。IQテスト風パズルとまともな知能テストの違いは、以前の記事でもご紹介しました。

 

www.giftedpower.net

以前の記事で紹介した高IQ者認定支援機構のCAMSと全く同じ理由で、SLSE48 のスコアは人間の知能を反映したまともなIQスコアとは到底考えられません。そして、その問題点は、実はSLSE48の制作者であるジョナサン・ウェイ博士自らが認め、そしてテスト受検者にも周知していることなのです。

では、SLSE48に関する注意書きを実際に見てみましょう。

Strict Logic Spatial Examination 48

This test was designed as an experimental measure of the high range of mental ability. I do not know what this test measures although people who score highly on this test also tend to score highly on standardized intelligence tests.

However, I would urge you to consider this test as a work of logical art rather than an accurate indication of your IQ. If you wish to get an IQ score you need to contact a psychologist and have a reliable and valid IQ test administered to you. The norms for this test only give you a theoretical IQ score which is really just a guess.

With that said, if you choose to take this test I encourage you to have fun. This test requires no knowledge whatsoever, just the ability to detect patterns. Take as much time as you need. References are allowed. Please DO NOT share or publish answers at any time with any other person, or publish this exam without my permission. 

ここにハッキリと書いてある通り、作者自身がこのSLSE48について

「SLSE48が何を測定しているかわからない」
("I do not know what this test measures")

「このテストは論理アートであり、あなたの正確なIQを示すものではないと考えていただきたい」
("I would urge you to consider this test as a work of logical art rather than an accurate indication of your IQ")

「IQスコアが必要な場合には、(このSLSE48ではなく)心理士を通して信頼性のある社会的に有効なIQテストを受ける必要がある」("If you wish to get an IQ score you need to contact a psychologist and have a reliable and valid IQ test administered to you. ")

といったように、きちんとした社会的に通用するIQテストではなく、そのスコアの意味もよくわからない、ということを作者自身が何度も表現を変えながら強調しています。つまり、このテストのスコアを人間の知能を反映したIQテストと扱うことは、テスト製作者の意図に反しているのです。

このSLSE48製作者のジョナサン・ウェイ氏は博士号を持ち、きちんと研究上のトレーニングを受けてきている人なので、自分の作ったテストの信頼性や妥当性がきちんと認識できていると考えられます。先日ご紹介した高IQ者認定支援機構の件とは、誠実さが段違いですね。

 

 

IQテスト風パズルスコアをウェクスラー式テストのスコアと混同して説明したクローズアップ現代+

しかし先日のクローズアップ現代+では、このテスト製作者自身が「何を測定しているかわからない」と言い、まともな知能指数と認めていないSLSE48のスコアを、何の説明もなく無批判に、ただ「IQ」として紹介してしまっていました。

加えて、太田三砂貴さんのSLSE48のスコアを根拠に「5億に1人」という紹介文をつけ、その後の知能指数と人口分布の説明につなげ、そして「IQ130以上がギフテッドと呼ばれる」というような説明をしてしまっていました。

番組で出ていたIQの人口分布グラフの引用元は"D. Whechsler, 1991"となっていました。D. Whechslerはもちろんウェクスラー式知能テストの生みの親である、ウェクスラー博士その人です。

つまり、クローズアップ現代+は、SLSE48のスコアとウェクスラー式知能テストのスコアの違いをまったく説明することなく、「IQ」という名前がついているという一点のみを根拠に、テスト製作者の意図すら無視してその信頼性が天と地ほど違うスコアを混同して扱ってしまったということです。

もちろん、まともな知能指数の算出に必要な標準化も行われていないSLSE48で算出した"IQスコア"が、きちんとした人口分布上の出現率に従うとことは期待も信頼もできません。そうしたSLSE48のようなIQテスト風パズルのスコアをギフテッドと結びつけることは、「これが解ければIQ200!」と謳うネットの"IQテスト"のスコアでギフテッドを判断する行為とほぼ変わらない、バカげた行為です。

それにも関わらず、SLSE48のIQ188をウェクスラー式IQスコアと同列に扱い「5億人に1人」と紹介してしまったクローズアップ現代+のIQリテラシーの低さは相当問題だったと思います。

MENSA会員とギフテッドを安直に結びつけてしまう危険性

もう一点、番組の作りで非常に気になったのは、ギフテッドに対するアンケートとしてJAPAN MENSAに協力を求めていた点でした。MENSAはIQ130以上を入会条件に謳っている団体であることから、IQ130以上をギフテッドとしていた番組的には都合が良かったのでしょう。

しかし、ここでも問題になるのはその"IQ算出"に使われているテストの内容です。以前の記事でも書いた通り、JAPAN MENSAの入会テストはレーヴン漸進マトリックステストをベースとした図形行列推定課題で構成されています。

このレーヴン漸進マトリックステストに代表される図形行列推定課題が知能のごくごく一部しか測定せず、また学習効果の影響を多分にうけるといった問題点は以前もご紹介しました。 

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しかし、今回の番組で何より大切だと思われる事実は、このレーヴン漸進マトリックステストは、米国でのギフテッド認定、そして科学研究上のギフテッド認定において、ほとんどと言っていいほど採用されていないという点です。つまり、このテストのスコアは、ギフテッドの認定や研究とほぼ無関係なものなのです。

従って、今回の番組で紹介されたアンケートは、ギフテッドとあまり関係のないテストスコアの上位2%を「ギフテッド」と決めつけた上で集められたアンケートであり、その妥当性を割り引いて考える必要があります。また、「IQ130以上ならギフテッド」という考え方自体にそもそもの問題があるため、アンケート結果の妥当性はさらに低下すると考えられます。

ギフテッドの正しい理解にはIQリテラシーの向上も必要だと思う

以上のような問題点から、今回のクローズアップ現代+のギフテッド特集は、IQというものへの無知に端を発して、かなり不正確なロジックで高IQとギフテッドの関係性を強調してしまっていたと感じました。

今回の番組がギフテッドという存在、概念、そしてその認識と教育をめぐるこの日本社会が抱える課題を大々的に扱った点については画期的で、非常に高く評価できるものだと私は素直に思っています。紹介されていたギフテッドの子達とケイの共通点もかなり多くて、大いに頷きながら観させてもらった部分もありました。

しかし、今後ギフテッドがこの社会で理解されていく上で、その認知向上を急ぎ、「理解の正しさ」が犠牲になってしまっては元も子もないとも同時に感じています。今後もギフテッドの社会的認知が広まることを願うと同時に、その紹介が番組製作上の理由など勝手な都合や無知によって、単純化されすぎたり歪められたりしないよう、ネットの片隅で強く願いつつ、情報発信をしていきたいと思います。

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